「まさか、まさかですっ!」
特派員からのFaceTimeオーディオだ。
「なんだ、なんだ。五月蝿いなあ。頭がガンガンするじゃないか」
ビエール・トンミー氏は、ベッドに寝たまま肘をつき、iPhone X を手にしている。
「あの男がまさか、ですっ!」
特派員の唾がiPhone X 越しに飛んできそうだ。
「もう少し、穏やかに話せんか。11時間寝て起きたばかりなんだ」
瞼は半分閉じたような状態だ。
「大活躍ですっ!」
「はああ?」
「あの男が、大活躍しているんですっ!」
「あの男って、エヴァの奴か?」
この特派員は、エヴァンジェリスト氏の動向を探らせる為に派遣した特派員なのだから、訊くまでもないことであったが。
「スーパー・マンになってるんですっ!」
「な訳ないだろう。アイツは、去年(2019年)、勤めていた会社を再雇用満了で辞めた後、『ああ、もう何もしたくない』と、日がな一日、Macでエロ画像やエロ動画を見て過ごしているはずだ」
「それは、アナタでしょ?」
「うっ!知らん、知らん!それより、アイツは何を大活躍しているんだ?」
「スーパー・マンですっ!」
「アイツは、洋物のヒーローや映画には興味はなかったはずだぞ」
「手にはカートやカゴを持ち、大忙しですっ!」
「はああ?カートやカゴを持った『スーパーマン』なんて聞いたことないぞ」
「え?誰が、『スーパーマン』って云いました?」
「君だ。君がそう云ったのではないか」
「私は、『スーパー・マン』と云ったのですっ!」
「ふぁああ、まだ眠いのだ。訳の分からんことを云うな」
「『スーパー・マン』です!『スーパー』の『マン』(男)です」
「ああ、アイツのことなんか、もうどうでもいい」
「『スーパー』で募集があったのか、とインタビューしたんです」
「要するに、アイツは『スーパー』で働き始めたのだな」
「あの男曰く、募集があったのではなく、募られていたのだ、ということでした」
「くだらん!そんな訳の分からんことを云うには、云々(デンデン)爺さんくらいだ」
「今月(2020年1月)は、まだ実習ですが、来月(2月)から本格稼働だそうです。客が精算後に使う黄色いカゴをレジ後ろに補給し、精算が終り、レジ後ろに置かれた黒いカゴを回収するんだそうです。『補給・回収』が基本だそうです。入口に準備されたカートが少なくなったら、カートを補充するそうです。駐車場に置かれたままになったカートの回収もするそうです」
「アイツは本当にスーパーでカゴやカートの整理の仕事を始めたのだな…」
「販売している灯油の給油もしているそうです。18リットルが一番多く、次が20リットルだそうです。でも、『フリー』もあって、これが難しいそうです」
「なんだ、『フリー』って?」
「18リットル、20リットルと決められた容量ではなく、10リットルとか15リットルといった顧客希望の容量の給油のことだそうです。18リットル、20リットルは、あらかじめ用意されたボタンを押せばいいので、そんなに難しくないそうですが、『フリー』はメーターを見ながらストップする必要があり、これが難しんだそうです。先輩もそう云っているそうです」
「君は、やけに詳しいなあ」
「時給1000円だそうです。1回の勤務が3.5時間なので、1回で3500円です。交通費は出ません」
「本当にインタビューでアイツがそこまで喋ったのか?」
「カゴやカートの整理の担当の開店準備では、入口前に並べられた予備のカートにかけられたシートを取ることを忘れてはいけません」
「ううん?おかしいぞ。君、詳しすぎるぞ」
「屋上の駐車場に置かれたカートの回収は、一度に10-11台までです。それ以上だと、エレベーターに乗せられません」
「君は…..いや、お前は!」
「ふふ、ふふ、ふふふふふ!ようやく気付いたか!」
「エヴァ!」
特派員を装ってFaceTimeオーディオをかけてきたのは、他ならぬ友人であった。
「見よ!我の晴れ姿を!」
iPhone X の画面に『スーパー・マン』に変身した友人の画像が映った。
「友よ、来れ!我がスーパーに!そして、我にチップを!」
(おしまい)
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