『少年』は、当時(1960年代)、人気のイギリスのバンド『ザ・ビートルズ』が『ヤロー・ソコリン』と訳の分らない歌を唄っているのを聞いてハブテた。
ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られると思ったが、ハブテた。
************************
(ハブテン少年[その142]の続き)
「ブブブブブーッ、ブブブブブブー」
『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の音楽室に、テナー・サックスの心地よい音色が響いていた。
「エヴァ、お前、うもうなったのお」
ムジカ先生は、心底、感心しているようであった。
「ブブブブブーッ、ブブブブブブラ、ブーラララーッ」
3年生になったエヴァンジェリスト少年は、アルト・サックスからテナー・サックスの担当に変っていた。
「ブブブブブーッ、ブーラ、ラララ、ブララ、ブララ、ブラララー」
演奏しているのは、大ヒットしたミュージカル映画『マイ・フェア・レディ』のメドレーであった。テナー・サックスが主旋律であった。
「お前、ホントに、うもうなったのお」
毎日、練習には来るものの、ブラスバンドが好きそうではなく、腕前も全く上達しない少年に主旋律を任せることには不安があったであろうが、少年のテナー・サックスは、思いの外、巧みであったのだ。
「(まあ、『マイ・フェア・レディ』の曲は何回も聞いているからなあ)」
次兄のヒモ君が、英語好き、映画好きであり、『マイ・フェア・レディ』を観に行き、サントラ盤のレコードも買って、毎日、プレーヤーでかけていたのだ。
「(曲を知っていたら、大丈夫だ。主旋律だし)」
1年生の時の「フィンランディア」も2年生の時の「新世界」も殆ど知らない曲であり、アルト・サックスは主旋律ではなかったので、曲のどこで吹き出していいのか分からないまま演奏していた。
「(どんなストーリーかも知っているし)」
エヴァンジェリスト少年は、映画『マイ・フェア・レディ』は観に行ってはいなかったが、ヒモ君からどんなストーリーであるかは聞いていた。レコードのジャケットに訳詞もあったので、曲(歌)の意味も理解できていたのだ。だから、感情移入もできたのだ。
「その調子でいけえよ」
と云って、ムジカ先生は、音楽室を出て行った。
エヴァンジェリスト少年は、心と股間だけではなく、ブラスバンドでも『大人』となってきていたのだ。
「(ん、よし。….でも、『うもうなった』っていうことは、これまでは下手だったのか…..)」
そのことにも気付く少年であった。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿