2020年1月19日日曜日

ハブテン少年[その154]




『少年』は、その年(1969年)に放映が始まったテレビ・ドラマ『水戸黄門』を見て、『水戸黄門』を演じるのは(主演は)、やはり月形龍之介だろうに、とハブテた。

ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られると思ったが、ハブテた。


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「(これも判らん…)」

エヴァンジェリスト少年は、自宅の子ども部屋にある作り付けの2段ベッドの下の段で、寝転がったまま読んでいた文庫本を、布団に伏せた。

「(いや、もっと判らん!)」

憤慨気味だ。内容を理解できないのだ。

「(前のより題名は、面白そうだったんだけど)」

布団に伏せられた文庫本の題名は、『海と毒薬』であった。

「(どうして、暗い小説ばかり書くんだろう?)」

その時は、まだ、遠藤周作の心の闇を知らなかった。そうだ。『海と毒薬』も遠藤周作の小説である。『前の』(その前に読んだ小説)とは、『白い人』、『黄色い人』である。

「(映画やドラマにしたとしても、これじゃあ、松原智恵子は出てこないなあ)」

『白い人』、『黄色い人』も、『海と毒薬』も、『石坂洋次郎』モノとは違い、純文学であり、そして、ただ純文学であるだけではなく、エヴァンジェリスト少年が好むような淡い恋もウブな性も扱った内容ではない。そこに、『松原智恵子』の入る余地はなかった。

「(どれも面白くない)」

詰まるところ、そうなのだ。だったら、『白い人・黄色い人』を買わなけりゃよかったであろうし、それが面白くなかったのなら、『海と毒薬』も買わなければよかったのだ。

「(でもなあ、『石坂洋次郎』は全部、読んじゃったしなあ)」

当時、文庫本になっていた石坂洋次郎の小説は、読破してしまっていた。

「(『シュードー』(修道高校)も『ガクイン』(広島学院高校)も『フゾク』(広島大学附属高校)も受験する訳じゃないから)」

だから、暇なのだ。『コーリツ』(公立高校)と『シリツ』(滑り止めの私立の高校)を一つ、受験するが、その為の受験勉強はしていないし、する必要があるとは思っていなかった。




「(級長の経験があったら、それだけで合格なんじゃと)」

と母親が説明した。滑り止めのその私立の高校のことである。

「(『コーリツ』(受験)も、何を勉強するんだろう?)」

『コーリツ』は、エヴァンジェリスト少年程の学力があれば、特別な受験勉強をする必要もなく、合格できると、傲慢ながら思っていた。しかし、本人だけではなく、親も教師もそう思っていたのだ。

「(『花と果実』も『だれの椅子?』も読んだし)」

石坂洋次郎の小説である『花と果実』と『だれの椅子?』は、文庫化される前の単行本として購入し、それも既に読んでしまっていたし、それまで散々お世話になってきた石坂洋次郎には申し訳ないが、

「(なんか詰まらないなあ)」

と思ってしまった。それは、『石坂洋次郎』を読み過ぎ飽きてきたのかもしれなかったが、エヴァンジェリスト少年の成長であったであろうし、そして、『倉本聰』のせいでもあったのだ。

「♬なみーきよ、さかーあよ♫」

という挿入歌にも心惹かれた、『石坂洋次郎』原作というよりも、『倉本聰』脚本の『颱風とざくろ』が、『石坂洋次郎』を詰まらなく感じさせるようになってしまっていたのだ。

かくして、エヴァンジェリスト少年は、『石坂洋次郎』を卒業し……


(続く)




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