(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その52]の続き)
「おー、ここだ」
ビエール・トンミー氏が、店を指差した。ウンコ談義をしている内に、ビエール・トンミー氏とエヴァンジェリスト氏は、目的の店に着いたのだ。店の看板には、『Eggs'n Things』と書かれていた。湘南江の島店である。
「おお、『エッグウウ…』だな」
店の前は、オープンテラスになっていた。ウッドデッキ続きとなっているオープンテラスの横を入口に向いながら、ビエール・トンミー氏が、自慢げに解説を始めた。
「ここのパンケーキは凄いからな。驚くなよ」
「ホットケーキに凄いも凄くないもあるのか?」
「ホットケーキじゃない!パンケーキだ」
「要するに、ホットケーキだろうに」
「パンケーキは、フランス語で何と云うんだ、フランス文学修士?」
入口のドアを開け、店員に席に案内される。
「うーむ、『パヌケ(pannequet)』だったかなあ….?」
「なにいー、マヌケだとお!」
席に着いたかと思うと、怒り出したビエール・トンミー氏に、店員が、思わず身を引いた。
「『パヌケ(pannequet)』のことを『マヌケ』と勘違いするなんて、まさにマヌケだなあ」
「む….いや、態とだ。『パヌケ』だってことくらい知っているさ。君が知っているか、試したのさ」
「ああ、君は、ハンカチ大学商学部のフランス語経済学で『優』をとったフランス語通だからな」
「そ、そ、そうだ!『il』が、『彼』で、『elle』が、『彼女』だってことも知ってるぞ」
「むしろ、フランス文学修士といっても、フランソワ・モーリアック(Françous MAURIAC)以外は、余りフランスの小説を読んでないボクは、『パヌケ(pannequet)』のことはそんなに知らないんだ。だって、モーリアックの小説には、ホットーケーキのことなんか出てこないからな。『テレーズ・デスケイルー(Thérèse Desqueyroux)』では、妻が夫を毒殺しようとするから『砒素』は出てくるがな」
『毒殺』という言葉に、隣席の女性二人が、老人たちの方に顔を向けた。
(続く)
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