2020年7月2日木曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その52]






「お!?どうした?」

エヴァンジェリスト氏が、訊いた。『エッグウウ…』なんとかという店の湘南江ノ島店に向いながら、ビエール・トンミー氏が呻き声を出したのだ。

「機内でウンコを漏らしたことがあるのか?それは、堪らんぞ、他の乗客は」

ビエール・トンミー氏が呻き声を出したのは、エヴァンジェリスト氏が、国際線の飛行機では、当然、他にも乗客がおり、トイレに行くタイミングも難しく、ウンコを漏らしはしないか、という懸念を口にした時であったのだ。

「馬鹿なことを云うな!」
「じゃ、漏らしたのは、シッコか?機内でビールでも飲みすぎたのか?」
「ウンコもシッコも漏らしてなんかいない!詰まらせただけだ」
「ええー!トイレを詰まらせたのかあ。じゃあ、機内は水浸しというか、オシッコ混じりの水浸しじゃないか。それは酷いぞ」
「誰が、飛行機のトレを詰まらせたと云った」
「えへ?」
「『アストン・ワイキキ・ビーチ・タワー』だ」
「アントン・イノキ?猪木の家のトレイを詰まらせたのか?」
「わざと聞き間違えているだろう!?云っておくが、ボクは君と違って、猪木には興味はない。ハワイのホテルだ。『アストン・ワイキキ・ビーチ・タワー』は、ワイキキビーチの真ん前徒歩2分の超高級ホテルだ」
「ボクだって、ニューヨークのグランド・セントラルの上の『グランドハイアット』や、パリでは凱旋門近くで4つ星デラックスの『ホテル・カリフォルニア』に泊ったことがあるぞ。アムステルダムでは、『ホテルオークラ』だった。全部、出張だったけどな」


[参考]





「ふん!また、仕事か。『アストン・ワイキキ・ビーチ・タワー』はなあ、ホントに超高級なんだぞ。部屋は2ベットルーム、デラックススイート、オーシャンフロントビュー、キッチン付きの超豪華な高層階。エレベーターは鍵をささないと止まらんのだ。テラスに出ると道を挟んで真下がワイキキビーチなんだぞ」




「君こそ、偉そうに。なんだかんだ云って、要は、その超高級ホテルのトイレを詰まらせたんだろうが」
「最終日に、トイレにウンコを詰まらせて、何も手当せずに黙ってチェックアウトして逃げた」
「そりゃ、酷い」
「君だって、アメリカの『(Compri)Hotel』でトイレを詰まらせただろうが」
「な、な、なんで知ってるんだ?」
「『プロの旅人』を読めば分る。君が、トイレを詰まらせたまま、『(Compri)Hotel』を出たことは、『プロの旅人』で世界中に知れ渡ってるぞ」
「いや、自慢じゃないが、ボクは、君と違って、ちゃんと『OUT OF ORDER』と紙に書いて便器の上に置いておいたぞ」




「こっちこそ、自慢じゃないが、ボクが詰まらせたのは、超高級ホテルのトイレなんだぞ」
「チキショー!金持ち自慢か。品がないぞ」
「いや、そうじゃないんだ。なんでそういう超高級ホテルに泊まったかというとだなあ、会社の保養所として契約していて、格安で泊まれたからだ。個人ではとても高くて泊れん」
「さすが日本を代表する大手食品会社に勤めていただけのことはあるなあ」
「だがな、ボクが泊ってずっと経って、そう云えばあのホテルはどうなったかと調べたら、何と保養所の契約がなくなっていた。きっとウンコを詰まらせて逃げた従業員のいる会社とは契約解消だということになったんだと思う」

ウンコ談義をする2人の老人は、すれ違う人たちが、『ウンコ』だの『詰まらせた』だの下品な言葉に、鼻をつまみ、眉を顰めていることに気付かなかった。


(続く)


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