2020年7月12日日曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その62]






「おや?」

エヴァンジェリスト氏が、ビエール・トンミー氏の口元に顔を寄せた。『Eggs'n Things』湘南江の島店で向かい合って座り、共にパンケーキを食べながら、ビエール・トンミー氏が、『アロハ』と『かりゆしウエア』の違いについて、解説している時であった。

「おいおい。なんだ。顔が近い。気持ち悪いぞ

ビエール・トンミー氏は、身を引いた。

「君は、子どもだなあ」
「はあ?」
「いや、子どもが、そんなヒゲなんか生やしてはいないか」
「ボクは、62歳だ。今月、なったばかりだ。君と同い年だろうが」
「それにしては可愛いなあ」
「ボント、気持ち悪い奴だな」

エヴァンジェリスト氏は、友人の鼻の下のヒゲを凝視めている。

「取ってやろうか?」
「え?」

ヒゲにホイップクリームが付いていた……




「ああ、ビーちゃん。ついちゃってるよお」

そう聞こえた。そんなはずはないが、そう聞こえたのだ。ビエール・トンミー氏の顔に右手が伸びて来ていた。

「んぐっ!」

ビエール・トンミー氏が、『バナナ、ホイップクリームとマカダミアナッツ』のパンケーキを食べる手を止め、己の股間に当てた。

「どうした?また、おしっこか?」

『病人』らしくない『病人』の友人の声が、ビエール・トンミー氏を現実に戻した。


(続く)



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