(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その61]の続き)
「おや?」
エヴァンジェリスト氏が、ビエール・トンミー氏の口元に顔を寄せた。『Eggs'n Things』湘南江の島店で向かい合って座り、共にパンケーキを食べながら、ビエール・トンミー氏が、『アロハ』と『かりゆしウエア』の違いについて、解説している時であった。
「おいおい。なんだ。顔が近い。気持ち悪いぞ」
ビエール・トンミー氏は、身を引いた。
「君は、子どもだなあ」
「はあ?」
「いや、子どもが、そんなヒゲなんか生やしてはいないか」
「ボクは、62歳だ。今月、なったばかりだ。君と同い年だろうが」
「それにしては可愛いなあ」
「ボント、気持ち悪い奴だな」
エヴァンジェリスト氏は、友人の鼻の下のヒゲを凝視めている。
「取ってやろうか?」
「え?」
ヒゲにホイップクリームが付いていた……
「ああ、ビーちゃん。ついちゃってるよお」
そう聞こえた。そんなはずはないが、そう聞こえたのだ。ビエール・トンミー氏の顔に右手が伸びて来ていた。
「んぐっ!」
ビエール・トンミー氏が、『バナナ、ホイップクリームとマカダミアナッツ』のパンケーキを食べる手を止め、己の股間に当てた。
「どうした?また、おしっこか?」
『病人』らしくない『病人』の友人の声が、ビエール・トンミー氏を現実に戻した。
(続く)
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