(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その60]の続き)
「ううん?どうした?」
ビエール・トンミー氏が、友人に訊いた。『Eggs'n Things』湘南江の島店で『ストロベリー、ホイップクリームとマカダミアナッツ』のパンケーキを食べるエヴァンジェリスト氏の手が止まったのだ。
「いや、ちょっと店内の様子を見ようとな」
エヴァンジェリスト氏は、店内を見渡す振りをした。
「ふふーん、食べられなくなってきたんだな?」
「この店は、ハワイの雰囲気なのか?」
「お腹一杯になったんだな?」
「あの店員が来ている制服は、『アロハ』か?」
エヴァンジェリスト氏は、女性店員を指して質問した。
「ん?ああ」
「『アロハ』って、『かりゆしウエア』とは違うのか?」
「食べられなくなってきたのを誤魔化すつもりだな?」
「はは~ん、『アロハ』と『かりゆしウエア』の違いが説明できないのを誤魔化すつもりだな?」
「なにをー!いいだろ、説明してやる。『アロハ』というか『アロハ・シャツ』はだなあ、もう100年近く前にハワイで日系移民が和服を仕立て直して作ったものから始ったんだ。今では、パイナップルなんかのトロピカルな絵柄が多いんだ。『かりゆしウエア』の方はだなあ、正式に『かりゆしウエア』と呼ばれるようになったのは、2000年頃だ。沖縄で作られて、沖縄らしいものじゃないといけないんだ」
「ふ~ん、相変らずの博識ぶりだなあ。ここに連れて来た女の子に、今のように『アロハ』と『かりゆしウエア』の違いを説明して見せたことでもあるんだろう」
姿勢を前傾させたエヴァンジェリスト氏が、下から意地悪な目線を上げて来た。
「な、な、ない!断じてそんなことはない。彼女は、そんなこと訊いて来なかった!」
それは、本当だった。『みさを』は、そんな質問をして来なかった。
「へ!?『彼女』?ほほおお」
エヴァンジェリスト氏の意地悪さは、目線だけではなく、歪めた口元にも現れて来た。
「うっ….,,いや、ここで、カレシにそんなことを訊いている女の子を見かけたことはない…ということだ」
ビエール・トンミー氏は、右手の甲で額の汗を拭った。
(続く)
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