「おいおい、何を妄想しているんだ?」
駅の改札を出たところで、マイクを突き付けられ、立ったままのビエール・トンミー氏は、どこのメディアか不明のマスクをした記者らしき男に、糾すように訊いた。記者らしき男は、『石原プロモーション』解散の影にビエール・トンミー氏あり、と睨んでいるのだ。
「アナタっていう人は、本当に腹黒い人だ」
「もういい加減にしてくれ。ワシは行くぞ」
「舘ひろしと神田正輝の引き抜きなんですね!?」
「ええ!?」
「舘ひろしと神田正輝は独立して個人事務所を持つのではなく、『オフィス・トンミー』に移籍するんですね!?そうだったのか!」
「おい、もう一度云うが、妄想もいい加減にしておけ」
「エヴァンジェリスト氏を手放さないことで、石原プロを解散に追い込み、舘ひろしと神田正輝を移籍させようとしていたとは!」
「いや、神田正輝はいらん。アイツは、『旅サラダ』しかしてないだろ」
「ほーら、やっぱりアナタの画策なんだ。しかし、アナタ、間違ってますよ。確かに、神田正輝は、『旅サラダ』しか仕事をしていないようですが、長寿番組のレギュラーですよ。しかもMCです。事務所としては美味しいでしょ」
「うーむ、確かにそうではあるなあ」
「おおっ、そうかあ!」
「な、な、なんだ?」
「そうだったのか!渡哲也もフリーになるのではなく、やはり『オフィス・トンミー』に移籍するんですね!?そうだったのか!」
「いや、知らん。それはない。ああ、いやいや、そもそも舘ひろしと神田正輝の『オフィス・トンミー』入りだってない。君の妄想に巻き込まれるところだった」
「渡哲也も体調がすぐれず、殆ど仕事はしていない状態ですが、宝酒造の『松竹梅』のCMは続けています。渡哲也だから、ギャラも相当でしょう。これだって、事務所としては美味しいでしょうなあ」
「君の妄想は凄いなあ。記者なんか辞めて、小説家か『プロの旅人』のような妄想系のブロガーにでもなったらどうだ」
「いえ、私は真実を追求したいんです。アナタは、『オフィス・トンミー』に、エヴァンジェリスト氏だけではなく、渡哲也、舘ひろし、神田正輝も入れて、事務所を盤石にしたいのでしょう」
「事務所を盤石にしたいところだけは真実だな」
「いや、エヴァンジェリスト氏、渡哲也、舘ひろし、神田正輝だけではない。私はもう掴んでいるんですぞ」
マスクをした記者らしき男は、北叟笑んだ。
(続く)
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