(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その71]の続き)
「君は、鎌倉をバカにしているのかっ!?」
江ノ電『長谷』駅を出て北上する歩道で、ビエール・トンミー氏が、唾を飛ばしながら、エヴァンジェリスト氏を叱った。
「いや、だって長谷寺って、紫陽花で有名じゃなかったかなあ」
62歳の爺さんだが幼子のように口を尖らせ、エヴァンジェリスト氏が反論した。
「確かに、長谷寺は紫陽花も有名だが、他にも色々な花が一年を通して見事に咲くから、『花の寺』と呼ばれているんだ」
「でもお…『あじさい寺』って鎌倉にあるんじゃなかったかなあ」
まだ口を尖らせている。それを楽しんでいるようにも見える。
「『あじさい寺』は、日本各地にあるらしいが、勿論、鎌倉にもある。だが、長谷寺ではない!『メイゲツイン(明月院)』だ。北鎌倉にある」
「ああ、北鎌倉ねえ」
如何にも『北鎌倉』には詳しいという口調であるが、眼は嘘をつけないでいる。
「『円窓』だ。『円窓』で有名だ。『明月院』の本堂の奥にある『円窓』は、君だって見たことがあるだろう」
「あー、ああー。あれかあ。昔、Macの壁紙に使っていたことがある」
「あの『円窓』はなあ、『悟りの窓』というんだ。そうだ、君も、どこかの禅寺で坐禅でもして悟りを開いたらどうだ」
「うーむう」
「おや、どうした?」
「産業医にも云われた。坐禅でも組めばいい、とな」
「おお、そうだろう、そうだろう。産業医は、やはり分ってるな。….ん?どうした?」
エヴァンジェリスト氏は、分り易くも、口を『へ』の字にしていたのだ。
(続く)
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