「ヴェルレーヌ(Verlaine)ですな」
マスクをした記者らしき男は、したり顔でビエール・トンミー氏にそう云った。ビエール・トンミー氏は、自覚はなかったが、どうやら、『Est-elle brune, blonde ou rousse ? - Je l'ignore.』というフランス語を呟いていたらしいのであった。
「え、そうなのか?」
「ヴェルレーヌ(Verlaine)の『Mon rêve familier』の一節でしょう」
「君はフランス文学の素養があるのか?」
「アナタこそフランス文学の素養があるのか、或いは、驚異の記憶力で『Mon rêve familier』を丸暗記したのか、あの若くて特に綺麗な女性を『昇天』させた後、その一節を聞かせ、更にアナタに酔わせたのでしょう。そう、『サトミ』という女に」
「『サトミ』というのか、あの女?」
「ほーら、やはり『サトミ』を『昇天』させたのですな」
「いや、そういうことではないが……どうして、『サトミ』という名前が解ったんだ?」
「アナタが口にしたんだ。上野から浅草、そしてまた上野を通過し、渋谷に向かう電車の中で、眼を閉じ、ブツブツと、『サトミ』、『ケシン』と云っていたのだ」
「ああ、そういうことか。君は何も解っちゃいない。『サトミ』は、映画『化身』に出てくるホステスだ。『里見』は源氏名で、本名は『矢島霧子』だ。最近、『化身』を見たから、ボクは、寝言で『化身』を語っていたんだろう」
「ふん、さすが、うまく誤魔化しますな。では、映画『化身』について語って頂こう」
「ああ、いいだろう。『化身』は、黒木瞳が宝塚退団翌年に全裸シーンに挑んだ映画だ」
「アナタは、『化身』をどう評価するのだ?」
「正直なところを云おう。『おーっ、これが有名な黒木瞳のオッパイか』、『おーっ、これが有名な黒木瞳のケツか、『おーっ、あの有名な黒木瞳が全裸でカラミをやっている』、これがワシの評価だ」
「おお、なかなか辛口の評論ですな。しかし、ふふ。それでやはり、アナタの計画が明らかになったぞ」
「はああ?」
(続く)
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