(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その67]の続き)
「だがなあ、ボクは、江ノ電のことを『路面電車』だなんて云ってはいないぞ」
江ノ島電鉄の江ノ島駅のホームで、エヴァンジェリスト氏は、『路面電車』の定義を滔々とと語った友人のビエール・トンミー氏に対して、底意地の悪い人間のような表情で反論した。
「チンチン電車だと云ったんだ」
無意識なのか意識的になのか、エヴァンジェリスト氏は、己の股間を、『位置』を直すかのように触っていた。その動きが眼に入ったビエール・トンミー氏は、
「ああ、もういい。さあ、乗るぞ」
と、エヴァンジェリスト氏の股間に眼がいってしまった自分自身を唾棄するかのような言葉遣いをし、江ノ電に乗った。
「雰囲気あるよねえ」
車両の中では、そんなニューハーフ・タレント風な物言いの女性の声が聞こえたが、
「ふん…チンチン電車が珍しいのか」
エヴァンジェリスト氏は、席に座った股を開き、首振り人形のように首を揺らしながら、そう云った。
「おい…チンチン電車は止めろ」
ビエール・トンミー氏が、小声で友人を制した。
「まあ、広島で路面電車を見慣れた君にとっては、珍しいものでないことはわかるがな」
と、ビエール・トンミー氏も、『広電』の車両を思い出していた。
「チンチン電車はまだ結構、各地で走っているぞ。札幌、函館、富山、高岡、福井、岡山、松山、高知、長崎、熊本、鹿児島なんかでも走っていて、乗ったことがある」
「君は全国を出張してきているものなあ」
「ああ…」
それまで怒りからか横柄気味な態度をとっていてエヴァンジェリスト氏が、突然、項垂れた。
(続く)
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