「アナタは、今時は珍しい辛口の評価をする映画評論家もできるんだ。それも、ただ評論するだけではなく、日仏合作『SNCF印象派殺人事件』なる映画の監督・主演も務めるのだ。西洋美術史を語れる美術評論家でもあり、フランス語経済学やフランス文学にも造詣が深い文化人としての側面もある」
ビエール・トンミー氏にインタビューをするマスクをした記者らしき男は、そうビエール・トンミー氏を評した。
「『SNCF印象派殺人事件』のことは知らんが、他のことは、まあ、外れてはいないなあ」
何だかよく分からない状況にはあったが、ビエール・トンミー氏は、マスクをした記者らしき男の評価に満足げではあった。
「アナタなら、『羽鳥慎一モーニングショー』の名物コメンテーターにだってなれる」
「いや、『羽鳥慎一モーニングショー』には、『コロナの女王』の岡田晴恵教授という強力なライバルがいる」
「アナタはラーメンだって語れる。岡田晴恵教授にラーメンを語れますか?そして、何よりアナタには、女性たちを『昇天』させる力がある」
「まあ、それはそうだが」
「そう、そんなアナタ自身が、『オフィス・トンミー』の隠し玉なんだ」
「ああ、またその話か。いい加減にしろ」
「石原プロ入りが噂されていたエヴァンジェリスト氏を手放さないことで、石原プロを解散に追い込み、舘ひろしと神田正輝を『オフィス・トンミー』に移籍させ、渡哲也だって『オフィス・トンミー』に入れる。でもそれだけではなく、自分自身をもタレントとすることで、事務所を盤石なものとするつもりなのだ。石原プロをその犠牲としていいと、アナタは思っているのか!」
マスクをした記者らしき男の言葉は、もうインタビューと云えるものではなくなっていた。
「ブルルルルルル」
ビエール・トンミー氏の胸ポケットでiPhone X が震えた。
「ん?んん?」
それまで閉じていた眼を開け、胸ポケットからiPhone Xを取り出し、ロックを解除した。
「(なんだ、アイツか)」
エヴァンジェリスト氏からのiMessageであった。
「おい、ニュースを見たか?『石原プロ解散か』のニュースだ。当然、遠からず、ボクのところに取材が殺到すると思うが、『ノーコメント。事務所通してくれ』とするから宜しく頼む」
「(ふん!また戯けたことを……んん?)」
ビエール・トンミー氏は、周りを見回した。
「(あの男は?)」
マスクをした記者らしき男はもういなかった。いや、それ以前に、そこは駅の改札を出たところではなかった。銀座線『渋谷駅』であった。電車が駅に到着したところであった。
「(今日は、国立西洋美術館に『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』を観に行き、『一蘭』でラーメンを食べ、銀座線に乗ったものの、疲れたのか座席に座ったまま眠ってしまい、上野→渋谷→上野と往復してしまったようだ。そして今、ようやくまた渋谷か…)」
それは、2020年7月16日、石原プロ解散か、というニュースが流れた日であった。
(おしまい)
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