2020年7月29日水曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その71]






「次で降りるんだ」

と、ビエール・トンミー氏が、エヴァンジェリスト氏にそう云ったのは、江ノ島電鉄の『長谷』駅の手前のところであった。

「(本当はまだ降りたくないが…)」

ビエール・トンミー氏は、友人の方に向き、話す振りをしながら、眼の端で前方の美脚を追っていた。

「(んぐっ!んぐっ!んぐっ!)」

美脚が、脚を組み直したのだ。

「おい、どうした?着いたぞ」

エヴァンジェリスト氏にそう云われ、電車が『長谷』駅に着いたことを知り、ビエール・トンミー氏は、背中に眼を付けたかのように、名残惜しさを醸し出しながら、電車を降りた。

「(んぐっ!)」

ホームを歩きながら、電車の中に視線を送ると、美脚の女に凝視め返され、股間が思わず、『反応』した。

「具合でも悪くなったか?」

と云いながらも、エヴァンジェリスト氏は、友人の股間に視線を落としていた。

「いや、なんでもない」
「そうかあ?ふふ、まあいいか。ここが『長谷』駅ということは、長谷寺がここにあるのか?」
「ああ」

気のない返事をしたビエール・トンミー氏は、駅を出ると、無言で北上する道に進んだ。

「長谷寺って『あじさい寺』だよな?」

病人とは思えぬ無邪気なトーンの声でエヴァンジェリスト氏が、質問した。

「はああ!?」

狭い歩道の先を行くビエール・トンミー氏が、ヤクザチックな顔で振り向いた。





(続く)



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