(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その70]の続き)
「次で降りるんだ」
と、ビエール・トンミー氏が、エヴァンジェリスト氏にそう云ったのは、江ノ島電鉄の『長谷』駅の手前のところであった。
「(本当はまだ降りたくないが…)」
ビエール・トンミー氏は、友人の方に向き、話す振りをしながら、眼の端で前方の美脚を追っていた。
「(んぐっ!んぐっ!んぐっ!)」
美脚が、脚を組み直したのだ。
「おい、どうした?着いたぞ」
エヴァンジェリスト氏にそう云われ、電車が『長谷』駅に着いたことを知り、ビエール・トンミー氏は、背中に眼を付けたかのように、名残惜しさを醸し出しながら、電車を降りた。
「(んぐっ!)」
ホームを歩きながら、電車の中に視線を送ると、美脚の女に凝視め返され、股間が思わず、『反応』した。
「具合でも悪くなったか?」
と云いながらも、エヴァンジェリスト氏は、友人の股間に視線を落としていた。
「いや、なんでもない」
「そうかあ?ふふ、まあいいか。ここが『長谷』駅ということは、長谷寺がここにあるのか?」
「ああ」
気のない返事をしたビエール・トンミー氏は、駅を出ると、無言で北上する道に進んだ。
「長谷寺って『あじさい寺』だよな?」
病人とは思えぬ無邪気なトーンの声でエヴァンジェリスト氏が、質問した。
「はああ!?」
狭い歩道の先を行くビエール・トンミー氏が、ヤクザチックな顔で振り向いた。
(続く)
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