(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その65]の続き)
「おい、どうした?」
エヴァンジェリスト氏が、ビエール・トンミー氏に訊いた。2人は、『Eggs'n Things』湘南江の島店を出て、歩いていた。
「なんだか歩きにくそうだな。股間に何か挟まってでもいるのか?」
股間を覗き込まれたビエール・トンミー氏は、ショルダーバッグを体の前に持ってきた。『Eggs'n Things』湘南江の島店で『みさを』とのことを思い出し生じた『異変』を隠したのだ。
「え?なんだ?何もないぞ」
と、惚けてみせたが、友人の次の言葉に動揺を隠し切れなくなった。
「今度は、チンチン電車か?」
「な、な、なぬ、チンチン!?」
人は、自分が気にしている言葉しか聞こえないことがある。己の股間に気を取られていたビエール・トンミー氏には、『電車』という言葉が聞こえていなかった。
「おお、おい、おい!公道でいきなりなんてことを云い出すんだ」
「君の方じゃないか、妙なことを云いだしたのは」
「はああ?だって、これから『江ノ電』に乗るんだろ?」
「それはそうだが…」
「だって、『江ノ電』って、チンチン電車だろうが」
「ああ…そういうことか」
気の緩んだビエール・トンミー氏は、ショルダーバッグを己の体の前で抑えていた手も緩み、ショルダーバッグが体の横にずれた。『異変』はまだそのままであった。
「(ふふん…)」
エヴァンジェリスト氏は、友人の股間に眼を遣り、勝手に納得した。
(続く)
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