(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その58]の続き)
「お待たせしましたあ」
ビエール・トンミー氏とエヴァンジェリスト氏との前に、それぞれ注文したパンケーキが置かれた。『Eggs'n Things』湘南江の島店である。
「おおおー!」
エヴァンジェリスト氏が、何かのCMのように、両手を広げ、驚いて見せた。メニューにあった写真の通りといえばその通りであったが、実物は、特に、ホイップ・クリームの塔の部分が、大きく見えた。
「どうだ、凄いだろ?」
自分のものでもないのにビエール・トンミー氏は自慢げであった。
「おお、確かに。うーん、これは、普通のホットケーキではないな」
「パンケーキだと云っただろうが」
「ホットケーキの部分が小さいぞ」
「甘くみるな」
「んん?これは、甘くないのか?」
「いや、甘いさ。だけど、甘くみてはダメなんだ」
「君は、商学部出身なのに、それも天下のハンカチ大学の商学部を卒業したのに、文学的というか、いや、哲学的な表現をする男だなあ」
「いいか、このパンケーキは、本当に甘くみてはダメなんだ。ボクは今、少し後悔しているくらいなんだ」
「お、ひょっとして、甘くなくて不味いのか?女の子目当てに、不味いのにこの店に入ったことを後悔しているのか?」
「ここのパンケーキは美味しいんだ。だから店は、女の子たちで一杯なんだ。だがなあ、このパンケーキを独りで食べ切るのは、結構、キツイんだ」
「そうかなあ、ホットケーキは5枚あるが、全部、小さいぞ。普通のホットケーキは、2枚重ねが多いが、ずっと大きくてしかも厚い。ここのは、なんだか少しケチくさいんじゃないか?」
ビエール・トンミー氏は、ゆっくりと左右に頭を振った。
(続く)
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