(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その66]の続き)
「うーむ、なんだかなあ…」
江ノ島電鉄の江ノ島駅のホームに立ったエヴァンジェリスト氏は、への字にした口から不満げな言葉を発した。
「何か文句があるのか?」
ビエール・トンミー氏は、やや面倒臭そうであった。
「これでは普通の電車ではないか」
「は?そりゃ、そんな特別な電車ではないさ」
「これがチンチン電車か?」
「何を云いたいんだ?」
「チンチン電車に、こんなホームはないぞ。これじゃ、中央線や山手線と同じじゃないか。チンチン電車のホームは、殆ど道路だ。道路に低いコンクリートで作られていたり、場所によっては、道路の白線でホームが書かれているだけだから、乗るときには、ヨッコラショと車両に上がるもんなんだ」
江ノ島電鉄の江ノ島駅のホームは、確かに、中央線や山手線と同じように車両の床と同じ高さに作られていた。
「ああ、君は何も分っちゃいない」
ビーエル・トンミー氏は、右手を上げ、左右に振った。
「いいか、江ノ電は、路面電車ではないんだ、普通の鉄道なんだ。路面電車は、道路に敷かれた線路を走るものだ。所謂、『併用軌道』だ。しかしだなあ、江ノ電は専用の線路を走っているんだ。まあ、何箇所か『併用軌道』はあるが、特認されたもので、江ノ電は、『鉄道事業法』による鉄道であって、『軌道法』が適用される路面電車ではないんだ」
ビーエル・トンミー氏は、一気にまくし立てるように説明した。
「君は本当に博識だなあ」
エヴァンジェリスト氏がまた『ハクシキ』という言葉を使ったが、ビエール・トンミー氏の股間には、今度は『異変』は生じなかった。
「(『みさを』は、江ノ電を普通の電車じゃないか、なんて云いはしなかった。そもそも『チンチン電車』なんて言葉を使いはしなかった)」
と気を緩めたビエール・トンミー氏に、エヴァンジェリスト氏が反論を始めた。
(続く)
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