「久しぶりの『イチラン』は如何でしたか?不味かったですか」
背を向けたビエール・トンミー氏に、マスクをした記者らしき男が、問いかけた。
「なにい!」
その場を去ろうとしていたビエール・トンミー氏が、振り向き、凄んだ。マスクをした記者らしき男の言葉を無視することはできなかった。福岡のラーメン店『一蘭』のラーメンにケチをつけてこられたのだ。
「『一蘭』は美味い!妙なことを云うな!」
ビエール・トンミー氏は、福岡に転勤していた時期があり、福岡の豚骨ラーメンへの造詣が深い。その日も、福岡のラーメン店『一蘭』のアトレ上野山下口店に入ったのだ。
「ラーメンは、『精』がつきますからねえ。ソノ前に食べることにしたんでしょ?あの若くて特に綺麗な女性と」
マスクをした記者らしき男は、マスクをしていたので確認はできなかったが、口の端を歪めていたようであった。
「君は、本当に恥知らずな男だなあ。そんなイヤラシイ発想しかできないのか!」
「ふん!『イチラン』のラーメンで、より『インラン』になったのでしょうに」
「おいおい、『一蘭』に失礼だぞ!そもそも、ワシは一人で『一蘭』に入ったんだ」
「まあ、店の中では一人のように見えましたね」
「意味不明のことを云うな」
「食べるカウンターが、一人一人、間仕切りのあるものでしたからね。一見、一人で食べているように見たでしょうが、アナタの隣の席には、あの若くて特に綺麗な女性いましたよね?」
「隣に誰がいるのかなんて気にはしていなかった。味に集中していたからな。何しろ、あのカウンターは、『味集中カウンター』なんだ。特許だって取っているんだぞ」
「確かに、あのカウンターは、味に集中してしまいますね」
「だろ?君もあの店にいて、食べたんだな。『一蘭』のラーメンは、本当に美味しいんだ。同じように東京進出している福岡のラーメン店の中には、多店舗展開をし過ぎて、味を落としてしまったところがあるが、『一蘭』は違う。福岡で食べていた味そのままだ」
「しかし、私は、その味に集中しすぎて、アナタたちを見失ってしまった。私としたことが」
マスクをした記者らしき男は、項垂れ、ビエール・トンミー氏に突きつけていたマイクも項垂れた。
(続く)
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