(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その69]の続き)
「だが、ボクが首のヘルニアで入院している間に、専務は勝手に2月1日付で辞令を出し、ボクを部長にした」
ビエール・トンミー氏が江ノ電の向いの席に座った女性の脚に眼を盗られていることも知らず、エヴァンジェリスト氏は、会社に対する不満を、続けてまくし立てた。
「3週間して退院したが、まだ痛みが残り、通院をし、まだ完全恢復しない内に、そうだ、退院して10日程で、4月からの新組織発表があり、部長は取締役が兼務となり、ボクは部長から外れることになった。云うならば、『十日天下』だ」
エヴァンジェリスト氏は、自嘲的に言葉を吐いた。
「まあ、望んだ訳でもない『天下』だから、それをう失うこと自体は、構わなかったが、問題は給料だ。ボクの年収は、200万円下がったんだ。専務は『赤字の責任はお前には負わせない』と云っていたが、ウチの会社は変な会社で、期末に責任者でいた者が、その期の業績の責任を負わせられるのだ。こちらからすると、部長になるべき者を部長にすると赤字になると予言し、それを的中させたくらいなんだから、むしろ評価を上げてもらいたいくらいだったのにな」
ビエール・トンミー氏は、
「ああ、ああ」
と友人の説明を聞く振りをしながら、こっそりと前方の美脚に眼を遣っていた。
「(んぐっ!んぐっ!)」
「しかもだ。社長が、4月からの新組織で、50歳以上の人間を殆ど役職から外すことにしたもんだから、ボクは部長でもなくなり、室長でもなくなった訳だ。その結果が、年収200万円のダウンだったんだ」
そこまで説明し、エヴァンジェリスト氏は、ふーっと息を吐いた。その時、
「おい、降りるぞ」
隣に座っていたビエール・トンミー氏が、声を掛けて来た。
(続く)
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