(治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その64]の続き)
「いや、君は正しい。参った」
『Eggs'n Things』湘南江の島店で向い合って座る友人に、エヴァンジェリスト氏は、彼にしては珍しく、素直に頭を下げた。
「甘く見ていた。いや、本当に甘いが、甘く見過ぎていた」
観念した証に、エヴァンジェリスト氏は、ナイフとフォークを皿に置いた。
「そうなんだ。最初は食べられると思うんだ。でも、実際は、独りで食べきるのはなかなかなんだ」
ビエール・トンミー氏は、友人を責めはしなかった。むしろ、『Eggs'n Things』のパンケーキの『凄み』を共有でき、満足気でさえあった。
「このホイップ・クリームは、とても美味しいが、年寄りにはキツイなあ。もたれてしまう」
エヴァンジェリスト氏は、椅子の背に凭れかかり、右手で脇腹を叩いた。
「ああ、年寄りにはキツイ…」
と友人の言葉に同調しながら、ビエール・トンミー氏の眼は、空を泳ぎ始めた。
「(『みさを』は、あの時、まだ若かった『みさを』は…)」
『あの時も』ビエール・トンミー氏は、『バナナ、ホイップクリームとマカダミアナッツ』のパンケーキを残してしまったが、『みさを』は、まだ若かった『みさを』は、ストロベリー、ホイップクリームとマカダミアナッツ』のパンケーキを残すことはしなかった。そして……
「んぐっ!」
パンケーキを平らげ、口の端に付いたホイップ・クリームを、ペコちゃんのように、舌でペロッと舐めたのだ。
「んぐっ!んぐっ!」
(続く)
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