2021年1月31日日曜日

バスローブの男[その90]

 


「(嫌い、嫌い、って、逆に、それだけ意識してるってことだわ)」


『マダム・トンミーとなって久しいマダム・トンミー』には、風呂場から聞こえる洗濯機の音が、松坂慶子のことを『嫌い、嫌い』という夫ビエール・トンミー氏の叫びのように聞こえていた。


「(あの人、やっぱり『お局様』とも?...)」


と、会社にいた人事総務部の古株女性社員で、松坂慶子に酷似した、通称『お局様』と夫との仲を今更ながら疑い始めたが、


「(でもお、どっちにしてもあの人、もう『プロレス』する『元気』なくなちゃってるし…)」


10歳年上の夫が、別室で寝るようになって久しい。


「遅い時間まで色々、研究することがあるから、君が寝る邪魔になってはいけないからね」


夫は、別室で寝る理由をそう説明した。


「(あの人、『プロレス』よりも西洋美術史に関心があって、夜な夜な自分の部屋で、西洋美術史の研究ばかりしてるんだもの)」


マダム・トンミーは、ビエール・トンミー氏が、西洋美術史の中でも特に、『インモー』の研究を眼を凝らしながらしていることを知らない。


「(あの頃のあの人のバスローブ姿は、格好良かったのに)」


夫と初めて入った『逆さクラゲ』の部屋のバスルームを出たところで、バスローブ姿で仁王立ちする夫が、伝説の名レスラー『ルー・テーズ』のようにも見え、次に、アントニオ猪木のようにも見えたことを思い出す。


「(ふうう….今のあの人のバスローブの姿ったら…)」


マダム・トンミーは、脳裏に浮かぶ年老いた夫の貧相なバスローブの姿を消すように、頭を左右に振った。





(続く)





2021年1月30日土曜日

バスローブの男[その89]

 


「(あの人、本当に『凶器』を持っていたわ!)」


『マダム・トンミーとなって久しいマダム・トンミー』は、風呂場から聞こえる洗濯機の音も忘れ、渋谷の『逆さクラゲ』の円形ベッドでの夫との初めて『一戦』を思い出す。


「(秘書室の女性も、広報部の女性も、あの人の『凶器』を見たのかしら…?)」


今更ながら、夫の会社での女性に纏わる噂を思い出す。


「(美人SEと会議室で2人で何してたの!?)」


会社の会議室でこっそり『プロレス』するなんて規律違反、とは思ったものの、自分も夫と会社で『プロレス』してみたかった思いは、自分には隠せない。


「(でも、やっぱりフケツだわ、『お局様』だけは!)」


人事総務部の古株女性社員の通称『お局様』は、専務の『元カノ』だったとも云われ、社長とも『関係』を持ったことがあるとも噂されていたからだ(あくまで噂ではあったが)。


「(お綺麗はお綺麗だったし、あの時、あの人….)」


会社のエレベーター・ホールで、夫(当時は、結婚前で、まだ夫ではなかったがは、『お局様』と話している時、『お局様』の網タイツの脚に眼をやっているのを見たことを思い出した。『お局様』が、夫と話している最中に、手にしていた書類を落とし、上半身を前傾させながら、それを拾う時には、夫が、胸の開いたブラウスを着ている『お局様』の胸の谷間に眼を落とした像も脳裏に浮かぶ。


「(んん、もう!そう、『お局様』、松坂慶子にとっても似てて…ううん。あの人、松坂慶子は大っ嫌い、って云ってるもの)」


確かに、ビエール・トンミー氏は、テレビに松坂慶子が出てくると、チャンネルを変えよう、と云い出すのだった。


「なんだ、あの関西弁は!」


松坂慶子が、NHKの朝ドラ『まんぷく』に出演した時の関西弁がとても関西弁ではない、と怒り、それ以来、松坂慶子嫌いとなったのだ。


「(でも…..あの人、松坂慶子がテレビに出る度に、チャンネルを変えよう、と云いながら、いつも股間に手を当ててる…)」




(続く)




2021年1月29日金曜日

バスローブの男[その88]

 


「(『名勝負数え唄』も、今は昔だわ…)」


風呂場から聞こえる洗濯機の音を聞きながら、『マダム・トンミーとなって久しいマダム・トンミー』は、思った。


「(『原宿の凶器』っていう噂は本当だったけど…)」


と、初めて、その『凶器』を眼にした時の、いや…手にした時の衝撃を思い出す。


「(最初は、ピストルだと思ったんだわ)」


しかし、ピストルにしては大きずぎると感じ(実際にピストルを触ったことはなかったが)、


「(ロケットのようにも思えたけど)」


それが、彼女の手の中で成長し始めたので、


「(まさかツチノコ?って…)」


と、見たことも、触ったこともない未知の生物かと思っていたところ、




「(あの人ったら、『うおー!うおー!』って、ウフッ)」


と、思い出し笑いに、




「(あらっ!?)」


尿意のような、尿意でないようなものを感じ、マダム・トンミーは、両脚を窄めた。



(続く)



2021年1月28日木曜日

バスローブの男[その87]

 


「うん!君となら」


ビエール・トンミー氏は、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドに並んで体を横たえる『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』に、『原宿のアラン・ドロン』な視線と共に、確信に満ちた語調で語りかけた。


「何回でもシタい!」


ビエール・トンミー氏の衝撃的な言葉に、マダム・トンミーは、瞬きを止め、


「え?!」


と、ビエール・トンミー氏を凝視めた。


「君となら、何回でもシタい!」


ビエール・トンミー氏は、同じ言葉を繰り返した。


「….ええ、私も」


眼を伏せながら、マダム・トンミーは応え、思った。


「(『名勝負数え唄』になるわ)


マダム・トンミーは、自らとビエール・トンミー氏との『戦い』を『ドラゴン』藤波辰爾と『サソリ固め』を得意とする長州力とのプロレスに準えた。




(続く)




2021年1月27日水曜日

バスローブの男[その86]

 


「え?」


『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドに並んで体を横たえるビエール・トンミー氏の言葉に、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、思わず、口を開いたままにした。


「(トンミーさんが、負けた?)」


そうだ。ビエール・トンミー氏は、『ボクの負けだ…』と云ったのだ。


「(ということは、私の勝ち?)」


ピンとこない。


「(でも…最初の『戦い』は、私、気を失ったみたいになちゃったから…)」


前夜の『第1戦』は、ビエール・トンミー氏の猛烈な『凶器』攻撃に失神したような状態になり、最後をよく覚えていない。


「(あ!トンミーさんも、『ウーッ!』って倒れ込んだような…)」


そんな気もしたが、定かではない。


「(今の『戦い』も、2人とも倒れ込んじゃって、ダブル・ノックダウン?)」


円形ベッドという『リング』(だとマダム・トンミーは思い込んでいる)に並んで体を横たえている状態は、まさにダブル・ノックダウンか、


「(ひょっとして60分フルタイム・ドロー?猪木さんとドリー・ダンク・ジュニアのNWA世界ヘビー級戦の時みたいに?)」


とは思うものの、アントニオ猪木とドリー・ダンク・ジュニアの2度共、60分フルタイム・ドローで終ったNWA世界ヘビー級戦は、まだ幼かったマダム・トンミーは実際に見たことはなく、知識として知っているだけであった。




「(でも、トンミーさん、『ボクの負けだ…』って…やはり、私の勝ち?確か、トンミーさん、また、『ウーッ!』って…)」


壮絶な戦いをした後、プロレスラーは、自分がどんな試合をしたのか覚えていないことがあることを思い出した時、


「君となら…」


ビエール・トンミー氏が、『原宿のアラン・ドロン』な視線を送ってきた。



(続く)




2021年1月26日火曜日

バスローブの男[その85]

 


「君ってえ……ふう…」


ビエール・トンミー氏は、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドで、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』と並んで仰向けに寝たまま、息を漏らした。


「ふう…」


マダム・トンミーも、体を横たえたまま、首だけを横に向け、息を漏らした。


「(アラン・ドロン…)」


『戦い』を終え、汗に髪を濡らしたビエール・トンミー氏が、マダム・トンミーには、


「(やっぱり『原宿のアラン・ドロン』だわ。でも…)


『太陽がいっぱい』でヨットの上で髪を濡らしたアラン・ドロンに見えたのであったが、




「(知ってるわ。この美しい顔の裏に、いえ、美しい顔よりもっと下のところに、怖ろしい『凶器』を隠していることを!そう、『原宿の凶器』!)」


と、マダム・トンミーが、視線を横の男の下半身に眼を落とした時、


「ボクの負けだ…」


男は、マダム・トンミーの方に顔を向け、『獣臭』が消え、代わりに潔さを乗せた香りの口臭の言葉を漏らした。



(続く)



2021年1月25日月曜日

バスローブの男[その84]

 


「(負けないわあ!)」


『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、今や『獣』を超えた『怪獣』と化したビエール・トンミー氏の猛攻を受けながらも、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、プロレスラーとしての意地を失わない。


「おお?おお?おおおおおー!」


ビエール・トンミー氏は、一瞬、動きを止めた。マダム・トンミーに体を返され、マダム・トンミーに組み敷かれたのだ。


「おお、おお、おおおー!」


マウント・ポジションを取ったマダム・トンミーも、『怪獣』と化し、『咆哮』を上げる。




「うおおおおおおおー!んぐっ!んぐっ!んぐっ!


ビエール・トンミー氏も呼応して、『咆哮」を、『音』を上げる。


こうして……どのくらいの時間が経ったであろうか。


「ああ……ふうう」


天井を見上げながら、ビエール・トンミー氏が、ため息をついた。


「ええ……ふうう」


マダム・トンミーも、天井を見上げながら、ため息をついた。


「ふふふ」


2人は、声を合わせて、笑いを漏らした。2人は、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドに並んで仰向けに寝ていた。



(続く)




2021年1月24日日曜日

バスローブの男[その83]



「(え!?また『戦い』?!)」


と思うまもなく、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドに胸も露わに寝そべる『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』の体の上に、『獣臭』が、物理的な重みをもって覆い被さってきた。


「(フライング・ボディープレスうう!..うっ!)」


攻撃を受けながらも、プロレスを愛するマダム・トンミーは、自身がビエール・トンミー氏から受ける技の名前を心中で発した。


「(痛っ…ああ…)」


胸に、針金のような『凶器』胸毛が刺ささり、マダム・トンミーは半目になった。


「(う、ううー!.....臭ーい!)」


もはや、それは、ビエール・トンミー氏の口臭なのか、『獣臭』なのか分からないが、マダム・トンミーは、その悪臭に病みつきになっていた。


「んぐっ!」


もう何ものにもはばからず、マダム・トンミーは、喉の奥から『その音』を発したが、


んぐっ!んぐっ!んぐっ!うおおおおおおおー!んぐっ!んぐっ!んぐっ!


彼女の『音』を超える、もはや『音』なのか『咆哮』なのか分からぬものをビエール・トンミー氏が発した。マダム・トンミーは、知らなかった。自分もまた『獣臭』を発し、それが、ビエール・トンミー氏を『獣』を超えた『怪獣』と化したことを。




(続く)




2021年1月23日土曜日

バスローブの男[その82]

 


「(え!?な、なに?)」


と、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』が、『んぐっ!んぐっ!んぐっ!』という猛烈な『反応』音がする方に顔を向けるよりも早く、彼女の顔を、あの『獣臭』が襲った。


「(ひゃーっ!)」


マダム・トンミーが寝そべる『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの横に立ったビエール・トンミー氏であった。


「(け、け、『獣』お!)」


ビエール・トンミー氏が、顔までも毛むくじゃらとなり、眼が血走っていた(ように見えていた)。




「うおー、うおー、うおおおおおー!」


と叫ぶと、『獣』は、バスローブを、腰紐を解いて背後に脱ぎ捨てた。


「ええ、ええ、ええー!」


マダム・トンミーは、『そこ』に再び、『原宿の凶器』を見た。



(続く)




2021年1月22日金曜日

バスローブの男[その81]

 


「(痛かったわ…)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、見たのだ。彼女が片肘をつき、シーツからむき出しの両肩を見せたままでいる『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの横に立ったビエール・トンミー氏の胸元だ。


「(まるで針金のようだった…)」


と、『その時』のことを思い出しながら、ビエール・トンミー氏の胸と対峙した自らの胸元に眼を遣った。




「(胸毛も鍛えて『凶器』にするなんて!)」


マダム・トンミーは、前夜のビエール・トンミー氏との『一戦』を、あくまでプロレスと理解している。


「(んんん、違う。あんな剛毛、やっぱり『獣』なんだわ。私、『獣』と…)」


プロレスというよりも、『人間』対『獣』の、もはや異『種』格闘技戦とさえ思えていた。


「(でも、チクチクして、ムフっ!)」


と、頬が緩み、その頬を両手で抱えるようにした時、マダム・トンミーの胸から下を覆っていたシーツが、ハラリと落ちた。


「んぐっ!んぐっ!んぐっ!」


ベッド脇から、猛烈な『反応』音が聞こえてきた。



(続く)




2021年1月21日木曜日

バスローブの男[その80]

 



「(ああ、昨夜の『戦い』…」)


『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、片肘をつき、シーツからむき出しの両肩を見せたまま、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、ビエール・トンミー氏から『昨夜は、有難う。とても良かったよ、君!』と云われた、前夜の彼との『プロレス』を思い出した。


「(壮絶な『戦い』だったわ…)」


マダム・トンミーの舌に、『ナメクジ』や『ヒル』の感覚が蘇る。鼻は、『獣臭』が突き上げてくる感覚に襲われる。


「君が、あんなに凄いとはねえ」


白いガウンを着た、いや、白いバスローブを身につけたビエール・トンミー氏が、円形ベッドの横に立ち、感嘆の言葉を漏らした。


「(え?私、そんなに強かったかしら?ええ、精一杯頑張ったけれど)」


と思いながら、ビエール・トンミー氏の胸元に眼がいった時であった。




「(んぐっ!)」


マダム・トンミーは、何かお漏らしをするような感覚に襲われ、シーツの中で両脚を再び窄めた。



(続く)




2021年1月20日水曜日

バスローブの男[その79]

 


「やあー!」


その声に、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、完全に覚醒した。声の主の男は、『逆さクラゲ』の部屋のバスルームを出たところで、仁王立ちしていた。


「おはよう!」


男は既に、30歳台半ばであったが、その声は、まだ青年の爽やかさを保っていた。


「ああ…」


マダム・トンミーは、円形ベッドの上で、片肘をつき、シーツからむき出しの両肩を見せたまま、男の挨拶に応えるというよりも、声を漏らした。白いガウンを着たその男は、最初、そう、伝説の名レスラー『ルー・テーズ』のようにも見え、次に、アントニオ猪木のようにも見えたが、『今』、


「(トンミーさん!)」


であることを知った。


「(リング・ガウンを持ってらしたのね)」


前日の晩、ビエール・トンミー氏と交えた一線をまだ、プロレスだと思っていたマダム・トンミーは、ビエール・トンミー氏が着ているバスローブを、プロレスラーがリング登場時に身に着けるガウンだと思っていたのだ。




「昨夜は、有難う。とても良かったよ、君!」


白いガウンを着た、いや、白いバスローブを身につけたビエール・トンミー氏が、円形ベッドに近付いてきた。



(続く)




2021年1月19日火曜日

バスローブの男[その78]

 


「(トンミーさんって、プロレスラーっていうよりも『獣』だったのね)」


『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、片肘をつき、シーツからむき出しの両肩を見せている『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、会社では紳士にしか見えなかったビエール・トンミー氏が、実は、荒々しいプロレスラーどころか、『獣』そのものであることを知ったのだ。


「(まさに『原宿の凶器』だったわ!)」


ビエール・トンミー氏を称して云われていた『原宿の凶器』が、広義には、ビエール・トンミー氏の存在そのものであり、狭義には、ビエール・トンミー氏の体のある一部を指すものであることを、マダム・トンミーは、身を以て知ったのだ。とはいえ、


「(あんな『凶器』を使うなんて、あれがトンミーさんのプロレス?!)」


前日の晩、ビエール・トンミー氏と交えた一線をマダム・トンミーはまだ、プロレスだと思っていた。


「(あんな『凶器』攻撃をしてくるなんて、酷い!もう私、ボロボロ…)」


マダム・トンミーは、肩だけ出していたベッドのシーツを少し上げ、その中を見た。


「(でも、うふっ…)」


ピンクに染まった自分の体を見て、思わず、肩を窄め、口の両方の端を上げた。


「(ああ…っ!)」


ビエール・トンミー氏の残り香の『獣臭』と自分の体臭とが入り混じった独特の臭いが、マダム・トンミーの鼻腔を突き上げた。


「(でもお…私も!)


マダム・トンミーは、彼女の鼻腔を突き上げてきた臭いで思い出した。自分も『獣』になったことを。





その時……



(続く)




2021年1月18日月曜日

バスローブの男[その77]

 


「(アレが『原宿の凶器』だったんだわ!でも、アレって…)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、『今』、自分が身を横たえている『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドのその上で、ビエール・トンミー氏がトランクスの中に隠し持っていることに気付いた『凶器』に思いを馳せた。


「(最初、ピストルだと…でも、ロケットのようにも…)」


確かに、それは最初、『ピストル』のように思えたが、右手でそれに触り、その太さ、形状から『ロケット』であると思ったものの、


「(生きてたあ…)」


そう、彼女が握りしめた右手から溢れていくように成長してきたことから、それが生き物だと悟ったことを思い出した。そして、それを『ツチノコ』と思ったことを。


「(でも、ツチノコじゃなかった!)」


マダム・トンミーは、『今』、その正体を知っているのだ。


「(だって、トンミーさんって、『獣』だった…)」


マダム・トンミーは、『今』自分が『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、片肘をつき、シーツからむき出しの両肩を見せている状況に至った状況を完全に思い出したのだ。


「(トンミーさんって、臭かったあ!)」


『原宿の凶器』が、実は、何らかの生き物であると感じた時に、プロレスの入場時のリング衣装を剥ぎ取るように、彼女のサッシュ・ブラウスを剥ぎ取り、続いて、胸に当てていたものまでをも剥ぎ取り、まさに『獣』然と、『うおー!うおー!』と叫ぶビエール・トンミー氏から立つ上ってきた獣臭が、『今』もマダム・トンミーの鼻先に漂っていた。





(続く)



2021年1月17日日曜日

バスローブの男[その76]

 


「(でも、まさかナメクジって!)」


『トンミーさんだったら、何をやっても許される』とは思ったものの、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、ビエール・トンミー氏が、『ナメクジ』までをも繰り出して来たことで、自分が持っていたプロレスの既成概念が完全に打ち砕かれたことを、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドという他にないプロレスのリングに身を横たえたまま、思い出した。


「(ツンツンしてきたわ…)」


口を口で塞ぐ『窒息技』をかけたまま、左手で右臀部に対して、右手で左『胸』に対してクロー攻撃を掛け、『リング』(実は、円形ベッドに過ぎなかったが)を回転させ莉子とまでしてきたビエール・トンミー氏が、今度は、『窒息技』をかけたまま口の中に『ナメクジ』を侵入させて、彼女の舌をツンツンし、口の中を右へ左へと、上へ下へとヌルヌル動き回らせ、そして、コブラツイストをかけるように絡みつかせてきた時の感覚がまだ舌に残っている。


「(でも、私、負けなかったわ!)」


そうだ、マダム・トンミーは、自らの舌で、彼女の口の中に侵入してきた『ナメクジ』に敢然と立ち向い、そのことで、侵入してきた『ナメクジ』が実は、ビエール・トンミー氏の『舌』であることに気付いたことを思い出した。


「(『ミル・マスカラス』vs『ブラッシー』にもなったけど…)」


『ナメクジ』に次いで、ビエール・トンミー氏の舌が、千の顔を持つ男『ミル・マスカラス』のように『ヒル』に変身し、舌を吸ってきたのに対して、マダム・トンミーも吸血鬼レスラー『フレッド・ブラッシー』のように、ビエール・トンミー氏の舌を強くキューっと吸ったところ、ビエール・トンミー氏が自らの下半身(トランクスの中)に隠していた『凶器』に気付いたが、


「(どうして気付いたのかしら?)」


と、気付いた理由は思い出せない。





(続く)