2021年9月29日水曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その1]

 


「さあ、ビエ君、召し上がれ」


と、母親に云われた『少年』は、


「はい!」


と、背筋を伸ばしたまま、斜め前の席に座る母親の方へと体を向け、サンドイッチを受け取った。特急列車の座席を回転させ、向い合わせの4人掛けの席になっていた。


「牛乳もあるわよ」


と、母親は、テトラパックの牛乳も手渡した。


「(この子には、やっぱりサンドイッチが似合うわ)」


母親は、その日の朝、おにぎりの弁当にするか、サンドイッチにするか考えたのだ。


「(だって、ハイカラだもの)」


『少年』は、母親の自慢の息子であった。


「(それに、美男子だし)」


両手でサンドイッチを持ち、大きく開け過ぎない口に運びながら、車窓から瀬戸内海を見る息子の横顔を見て、微笑んだ。




「ママ、私にもサンドイッチ頂戴」


隣に座っていた娘に催促され、母親は、我に返った。


「はい、どうぞ」

「もう、ママったら、いつもお兄ちゃん、優先なんだから」


と、少し頬を膨らませたが、娘は本気で怒っている訳ではないようであった。


「……」


前日も残業をし、疲れていたのか、『少年』の隣に座る父親は、うたた寝をしていた。


『少年』とその両親と妹の、そう、若き日のビエール・トンミー氏の一家は、父親の転勤に伴い、山口県宇部市の琴芝から広島市に引っ越して行くところであった。



(続く)



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