2021年9月30日木曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その2]

 


「(沢山、来てたわ)」


『少年』の母親は、琴芝駅(山口県宇部市)の周辺に、隠れるように集っていた少女たちに気付いていたのだ。


『少年』が、琴芝から広島に引っ越すことを知り(1967年3月のことである)、


「ビエ君、本当に行くん?!」


と、瞼に涙を溜めたのは、『少年』がいた宇部小学校の女子児童だけではなかった。神原小学校の女子児童たちも、


「ジェームズ・ボンド、ずっと琴芝におってえ!」


と、『琴芝のジェームズ・ボンド』の異名を持つ『少年』に会えなくなるという現実を受け止められないでいた。


「うち、広島の高校、大学に行っちゃる」


と心に決める宇部学園女子中学・高校(今の慶進中学・高校)の女子生徒たち、宇部中央高校の女子生徒たちもいた。


「グトン」


と電車が動き出した時、そんな女子児童たち、女子生徒たちが、『少年』が乗った列車のいる琴芝駅のホーム横に、塩田川を越えた側にも、何人も佇んでいたのだ。




「(でも、ビエ君、まだ女の子には興味なかったみたい)」


電車の車窓からそんな少女たちを見ながら、『少年』の母親は、どこか安心したように、そう口の中で呟いた。『少年』は、線路脇の草を見ており、少女たちに気付いている風ではなかった。


「お兄さんに紹介してえや」


自分の兄を見送りに来た少女たちに気付いていた『少年』の妹は、何人もの同級生の女子児童に、そう頼まれたことを思い出していた。


「(まあ、確かに….)」


と、妹(若き日のビエール・トンミー氏の妹)は思ったが……



(続く)




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