「(確かに、美男子だけどお…)」
と、『少年』の妹は思った。自分の同級生たちや他の学年の女子たちが、兄に憧れているのを知っていたのだ。
「(お兄ちゃんには、みんなの知らない、面白いところもあるわ)」
小学4年生を終えたばかりの妹は、まだ語彙が少なく、『面白い』と表現したが、今なら『滑稽』と表現したであろう。
「(だって、ホント、尺取り虫みたいだったもの)」
『少年』は、『うつぶせ寝』の状態で、腰を上げ下げしているところを妹に見られてしまったのだ。
しかし、妹は、知らなかった。『兄』が『尺取り虫』をしていた頃、これから、引っ越していく広島市のある小学校の体育用具準備室で、
「ウンギリギッキ!ウンギリギッキ!」
と叫びながら、同級生に背後から抱きつき、股間を同級生の臀部に押し当て、立ったままだが、これも『尺取り虫』のように、腰を前後に振っている小学生たちがいたことを。
(参照:【ゲス児童】『くしゃれ緑』な『ウンギリギッキ』(その30)[M-Files No.5 ])
「ええねえ、広島行くん?」
妹は、琴芝小学校の同級生の女の子から、そう羨ましがられた。
「うん、そうだよ」
「広島いうて、大きいんじゃろ?」
と、同級生の女の子は、人差し指を頬に当てた。『大きい』とは、この場合、『都会である』という程の意味であった。小学4年生にとって、『都会』は『大きい』存在なのであった。
「うん、大きいと思うよ」
と答えたものの、ビエール・トンミー少年の妹は、広島がどんな街であるのか知らなかった。今(2021年)のような情報化の進んだ世の中ではなかったのだ。
「パパ、広島って大きいの?」
妹は、特急電車の席でうたた寝をしていた父親に訊いた。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿