「(あの子、朝鮮とかベトナムとか、なんか難しいこと云うちゃってじゃあ)」
『少年』をアメリカのテレビ映画『パパはなんでも知っている』の長男『バド』のように見ていた少女は、乗っている『青バス』(広電バス)の中で、『少年』が彼の父親に向け。発した言葉に驚いた。少女は、朝鮮のこととか、ベトナムのことは、言葉を聞いたことがあるくらいで、よくは知らなかったが、何か難しい問題があることは知っていたのだ。
「(あの子、まだ小学生か中学生になったばっかりみたいじゃのに、『パパ』と南北朝鮮問題とかベトナム戦争のことを話しおうとるん!?)」
『少年』の父親をアメリカのテレビ映画『パパはなんでも知っている』の『パパ』うに見ていた少女の母親も、『少年』とその父親との会話に、自分がいる次元とは異なるレベルを感じ、驚きと憧れとを抱いていた。
「(やっぱりハイカラな親子じゃねえ)」
ベトナム問題、朝鮮問題が、ハイカラであるか疑問が残るものであるが、少女の母親は、バスに乗り合わせたその父と息子を、ハイカラな『パパはなんでも知っている』の『パパ』と長男『バド』のように、広島では見掛けることのない父子と見えたのだ。しかし、
「駅の『南北問題』というのは、朝鮮ともベトナムとも関係はないんだが」
と切り出した『少年』の父親の説明から、『南北問題』が、『少年』が思うものでもなく、また、少女とその母親が思うようなものではないことは明らかになった。
「でも、朝鮮やベトナムのように、南北に分断されているということは同じなんだ」
朝鮮は、当時も(1967年だ)、今も(2021年である)、北朝鮮と韓国とに分断されているし、ベトナムは、当時、『北ベトナム』(ベトナム民主共和国)と『南ベトナム』(ベトナム共和国)とに分かれ、戦争をしている真っ最中であった。
「同じ地域というか街が、鉄道の線路、駅によって南北に分断され、南か北かのどちらかだけが栄え、もう片方の方は栄えていないということがあるんだよ。これが、駅による『南北問題』さ。駅によっては、『東西問題』の場合もあるとは思うがな」
という『少年』の父親の説明は、『少年』に対するものであったが、『少年』とその父親を凝視める少女とその母親にも聞こえ、『青バス』(広電バス)に並んで座る少女とその母親は共に、ふんふんと同期を取るように頷いた。
しかし……
(続く)
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