2021年10月18日月曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その20]

 


(あ、川だ!)」


『少年』は、牛田に近づいた『青バス』(広電バス)の窓外を見て、口の奥で叫ん


「(塩田川よりずっと大きい)」


塩田川は、その日まで(1967年の3月である)住んでいた宇部市の琴芝駅横を流れる川である。


「(泡がない…)」


窓外に見える川は、まだその名も知らなかったが、塩田川とは比べることもできない程、広く、綺麗に見えた。塩田川は、当時(1960年代である)、汚い川であった(今は綺麗になっているらしい)。


「(臭かったあ)」


塩田川の臭気が、今も、鼻をつくような感じがした。塩田川は、洗剤の泡が大量に川面を埋め、泡が空気中に立ち上っている川だったのだ。


「(どうして、あんな臭い川で釣りをしたんだろう?)」


塩田川では、大人が沢山、釣りをしており、『少年』も見よう見まねで釣りをしたことがあったのだ。『煮干し』を餌にして呆れられたのではあったが、今、目の前に広がる広島の綺麗な川を見て、『少年』は、泡と臭気の塩田川で釣りをした自分を恥じた。尤も、泡が吹く川なんて、当時は当り前ではあった。今だと、公害と云われ、大変なことになるであろうが。




「(やっぱり広島は違うんだあ)」


塩田川よりすっと広く綺麗なその川を見た時、『少年』は初めて、広島が琴芝よりはずっと『街』であることを感じた。広島駅の南口も、琴芝よりははるかに栄えていたが、どこか猥雑な感じの漂いがあり、その後にバスで回った広島駅北口、そして、その後の街並みも、琴芝よりは家も多く、人も多かったが、活気に満ちているとは云えず、色合いも全体に燻んでいて、『街』感は薄かったのだ。


しかし、牛田に近づいたところで見た川は、違った。


「(これが、川なんだ)」


『少年』は、感嘆した。


「(塩田川なんて、ドブだ!)」


しかし、その時は、知らなかったのだ。



(続く)




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