「それって、南北に抜ける道を作ればいいんじゃないの?」
広島駅南口から北口に回り牛田方面へと向う『青バス』(広電バス)に乗った『少年』は、父親にそう、質問というか、提案をした。駅の南側と北側との片方だけが栄え、もう片方が栄えないという『南北問題』への解決策の提案である。
「確かにそうなんだが、ただ道を作ればいいというものではないんだ」
父親は、小学校を卒業したばかりの息子に対するというよりも、成人して意見交換できるようになった息子に対するかのような云い方をした。
「実際、地下道がある駅だってあるし、跨線橋のあるところもあるんだ」
「『コセンキョウ』?」
「ああ、『跨ぐ』(またぐ)『線路』の『橋』と書いて、『跨線橋』(コセンキョウ)というんだ。文字通り、線路を跨ぐ、線路を越えることのできる橋だ。でも、地下道や跨線橋があっても、『南北問題』はそう簡単にはなくなりはしないんだ」
父親は、残念そうに云った。
「だったら、駅を上にあげて、その下を通れるようにすればいいんじゃないの?」
「え!?」
という、声というよりも音を、父親は、思わず発した。
「うーんん、そうだなんだがなあ…問題は、駅というか駅舎だな、それが問題じゃあないんだ。本当の問題は、線路なんだ。駅舎を上にあげても、線路がそのまま地面にあったら、そこを横切るには、踏切が必要だろう。踏切があると、本当の意味で南と北とが繋がったとは云えないだろうな」
と、父親は、『南北問題』の根本の説明をしたが、『少年』は、引き下がらない。
「駅だけじゃなくって、線路も上にあげればいいと思う」
「…っ!」
と、今度は、父親は殆ど声にならない音を口から発した。
(続く)
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