2021年10月6日水曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その8]

 


「(豹?)」


両親と妹を追い、広島駅前に沢山あるバス停の一つに向いながら、『少年』は、あるバスの側面に描かれたモノに気を取られた。


「(いや、ジャガーかなあ?)」


『少年』の頭の中で、ネコ科の俊敏そうな動物たちが、駆け回った。


「(豹って、英語だとジャガーなのかなあ?)」


小学校を卒業したばかりだから、まだ英語の知識はない。ネコ科らしいその動物が疾走する姿が描かれた、何本かの赤い横線が走ったバスが、動き出した。


「(チータか?いや、『いっぽんどっこの唄』じゃあない)」


『少年』は、頭を振った。動物のチータが、『いっぽんどっこの唄』で大ヒットを飛ばした演歌歌手の、『チータ』こと水前寺清子とは関係ないことは分っていたが(水前寺清子の本名が『民子』で、小柄だったから、『チいさなタみこ』で『チータ』と星野哲郎が名付けたことも、まだ知らなかったが)、『チータ』というと、どうしても女性の着流しの姿が、脳裏に浮かんでくるのだ。




「(あ、ピューマかなあ?)」


その時、まだ『少年』は、スポーツ・ブランドの『PUMA』を知ってはいなかったが、『少年』が見たバスの側面に描かれた動物の失踪する姿は、『PUMA』のトレード・マークの動物(まさに、ピューマだ)に似ているものであった。


「(豹とジャガーとチータ、ピューマって、どこが違うんだろう?おんなじなのかなあ?)」


豹とジャガーとチータ、ピューマは、違う動物である。しかし、当時(1967年)も今(2021年)も、大人だって、その違いを説明できる人は少ないだろう。動物園のように檻に入れられ、名前が書かれたプレートでもなければ、見分けもつかないだろう。『琴芝小学校児童史上最高の頭脳』と、教師たちから評価された『少年』、若き日のビエール・トンミー氏が、混乱しても仕方はなかった。


「ああ、あれか。犬だよ」


息子の視線から息子の疑問を察した聡明な父親が、教えた。


「え?犬なの?」



(続く)






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