「ああ、そのバス会社は、その名も『グレイハウンド』というそうだ」
と説明する父親を『少年』は、凝視した。
「『帝産バス』や、他の日本のバス会社で犬のマークをつけるようになったのも、アメリカの『グレイハウンド』社の影響かもしれん」
『少年』は、あらためて父親を尊敬した。
「(父さんは、なんでも知っている)」
と『少年』が思った時、自分が心の中で呟いたその言葉からの連想で、自分の父親が、『パパは何でも知っている』のパパのように見えた。
「(あの『パパ』みたいだ。妹のように、父さんをパパと呼ぶのは恥ずかしいけど)」
『パパは何でも知っている』は、当時、ヒットしたアメリカのテレビ映画である。当時(1967年である)、日本では見かけることのない大きな冷蔵庫等、そこに描かれるアメリカの家庭の豊かな生活ぶりに憧れたが、包容力のある『パパ』に、しっかり者でしかも美人の『ママ』、仲のいい子どもたちの家族は、どこか自分の家族に似ている気がしていた。
「(父さんは、あの『パパ』と同じで、何でも知っているだけではなく、格好いいし)」
『少年』の父親は、『パパは何でも知っている』のパパを演じたロバート・ヤングに似たところがなくはなかった(年齢は、ロバート・ヤングよりずっっと下であったが)。少なくとも、ロバート・ヤング同様、ハンサムでダンディーであり、
「父さんって、会社のBGに人気あるんですって」
と、『少年』の母親が、少し口を尖らせながら、でも、自慢げな様子も見せながら、『少年』に云ったこともあった。『BG』とは、今でいう『OL』のことであるが、『Business Girl』の略であり、『Business Girl』は、『売春婦」の意味となるので、1963年には、NHKは放送禁止用語としたそうであるが、その後もしばらく、一般には、『BG』という言葉は使われていた。
「トンミーさんに奥様やお子さんがいなかったら…」
「いいえ、アタシ、奥様がいても構わないわ!」
と、『少年』の父親は、勤めていた会社のBGたちの憧れの的でもあったのだ。『少年』は、そのことを勿論、知る由もなかったが、後年、彼自身、
「ええ、ダンディよね、トンミーさんって。でも…」
と勤務する会社のBGたちに、いや、OLたちに囁かれるようになるのだ。
(参照:バスローブの男[その22])
しかし、その時も……
(続く)
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