「あれって、犬なの?」
そうだ。『少年』は、着いたばかりの広島駅前で見かけた『赤バス』こと、『帝産広島バス』の車体の側面に描かれた動物について、父親に質問した。
「ああ、チーターに見えるかもしれないが、あれは、『グレイハウンド犬』という犬なんだそうだ」
父親は、『赤バス』の車体側面に描かれた動物が、『犬』であることだけはなく、それが『グレイハウンド犬』であることまで知っていた。
「でも、どうして、『犬』が、うん、その『グレイハウンド犬』って犬が『赤バス』についてるの?」
と父親に質問を重ねる『少年』の探究心は、後年(勤務していた会社の退職後)の『インモー』研究の萌芽ともいえるものであった。
「ああ、『帝産バス』が車体の側面に『グレイハウンド犬』のマークをつけているからだ。『赤バス』は何しろ『帝産広島バス』だからな。でも、じゃあ、どうして、『帝産バス』は車体の側面に『グレイハウンド犬』のマークをつけているのか、と訊きたいんだろ?」
「足が速い犬なの?」
「ああ、多分、そうだと思う。『グレイハウンド犬』って、狩猟用の犬らしいんだ。だから、足は速いだろう。それで、ビエールが思う通り、自動車というかバスに相応しいと考えたんだろうな。スタイルもいい犬のようだから、デザイン的にもいいしな」
父親は、『一』を聞いただけで『十』を知る息子に満足げな表情を浮かべ、説明を続ける。
「でも、犬のマークをつけているバスは、『帝産バス』だけじゃないらしいんだ。『東京』の『小田急バス』も車体に犬のマークをつけているそうだ」
「『小田急バス』も『グレイハウンド犬』なの?」
その時(1967年である)、『少年』は、後年、『小田急』沿線に住むようになり、『小田急バス』も日常的に見るようになるとか思ってはいなかった。
尤も、『小田急バス』は、1969年には路線バスからは犬のマークを外し、貸切バスとリムジンバスにのみ、犬のマークをつけるようになったので、『少年』が長じて『小田急』沿線に住むようになった頃には、日常見る『小田急バス』には犬マークはついていなかった。
「うーむ、それは分からないなあ。『小田急バス』は、見たことないしな。でも、『グレイハウンド犬』のマークをつけたバスは、アメリカにもあるらしいんだ」
「え?!アメリカに?」
『少年』こと、若き日のビエール・トンミー氏の眼前には、まだ見ぬアメリカ合衆国の街が浮かんで見えた。アメリカのテレビ映画で見たイメージである。
(続く)
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