2021年10月27日水曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その29]

 


『フクヤ』?」


引越してきたばかりの牛田の新しい我が家で、『少年』は、眉を顰めて、父親に質問した。


「ああ、『福屋』だ。今晩は、『福屋』の食堂に行こう」


父親は、笑顔で『少年』に答えた。


「服屋さんに食堂があるの?」


「はは!その服屋さんじゃないよ。幸福の『福』に屋根の『屋』と書いて『福屋』だ。百貨店だよ。まあ、三越も松坂屋も高島屋も、元は『呉服店』だけどな」

「え、百貨店って、『大和』(だいわ)みたいなの?」


『少年』は、それまで住んでいた宇部市にあるデパートの名前を出した。


「ああ、そうだよ」


と、父親は、『少年』の認識を肯定したが、実は、宇部新川駅前にあった『大和』(駅前店)は、実はスーパーマーケットであったとも云われる。しかし、市民の認識は、『デパート』であったらしい。食堂もあったし、屋上には、デパートのように遊園地はあったのだから。


「屋上に遊園地はあるの?」


と訊きながらも、『少年』は、やや頬を赤らめた。自分はもう中学生になるんだから、デパートの屋上の遊園地で遊ぶなんて、と思ったからだ。でも、まだ遊園地の乗り物には興味はあったのだ。




「ああ、多分、あると思うよ。でもな、『福屋』は、『大和』よりずっと歴史があるんだ。何しろ、昭和4年にできたんだから」

「ええ!じゃあ、お父さんくらいの歳だね」

「ああ、そうだな。被曝だってしてるんだから」

「ん?『ヒバク』?」



(続く)



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