「『フクヤ』?」
引越してきたばかりの牛田の新しい我が家で、『少年』は、眉を顰めて、父親に質問した。
「ああ、『福屋』だ。今晩は、『福屋』の食堂に行こう」
父親は、笑顔で『少年』に答えた。
「服屋さんに食堂があるの?」
「はは!その服屋さんじゃないよ。幸福の『福』に屋根の『屋』と書いて『福屋』だ。百貨店だよ。まあ、三越も松坂屋も高島屋も、元は『呉服店』だけどな」
「え、百貨店って、『大和』(だいわ)みたいなの?」
『少年』は、それまで住んでいた宇部市にあるデパートの名前を出した。
「ああ、そうだよ」
と、父親は、『少年』の認識を肯定したが、実は、宇部新川駅前にあった『大和』(駅前店)は、実はスーパーマーケットであったとも云われる。しかし、市民の認識は、『デパート』であったらしい。食堂もあったし、屋上には、デパートのように遊園地はあったのだから。
「屋上に遊園地はあるの?」
と訊きながらも、『少年』は、やや頬を赤らめた。自分はもう中学生になるんだから、デパートの屋上の遊園地で遊ぶなんて、と思ったからだ。でも、まだ遊園地の乗り物には興味はあったのだ。
「ああ、多分、あると思うよ。でもな、『福屋』は、『大和』よりずっと歴史があるんだ。何しろ、昭和4年にできたんだから」
「ええ!じゃあ、お父さんくらいの歳だね」
「ああ、そうだな。被曝だってしてるんだから」
「ん?『ヒバク』?」
(続く)
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