2021年10月20日水曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その22]

 


「降りるぞ」


という父親に従って、『少年』とその母親、妹は、『青バス』(広電バス)を降りた。


「ここが牛田だ」


と、父親は、満足げな表情で歩を進め始め、『少年』は、


「(いい『街』だ)」


と、閑静な住宅街を父親の背を追いながら、進んだ。しかし、『少年』は、自分の背を見ている存在には気がついていなかった。


「(王子様も、牛田なんじゃ!)」


それは、『少年』のことを、アメリカのテレビ映画『パパはなんでも知っている』の長男『バド』、いや、今は、『王子様』と見ている、バスに乗り合わせていたあの少女である。


「(『パパ』もここに住んどられるんじゃ。これまで見かけたことなかったんじゃけど)」


少女と共に、『少年』一家と同じバス停でバスを降りていた少女の母親も、『パパはなんでも知っている』の『パパ』のような『少年』の父親の背中を眼で追っていた。


「(何年生なんじゃろう?また会えるんじゃろうか?)」


『王子様』を自分と同じ年頃と見た少女は、同じ教室にいる『王子様』を夢想した。




「(どうしょう!?また、会うかもしれんけえ…)」


と思うと、母親は、脚を内股にし、体を微妙にクネらせた。


「どしたん、お母ちゃん?」


と訊く娘に、我に返った母親は、


「どうもせんよおね。行くよ」


と、名残り惜しさを隠しながら、『少年』一家とは、別の方向に体を向け、


「(そうよねえ。なんでもないんよ。ウチには、お父ちゃんいうヒトがおるんじゃけえ)」


と、お尻を左右に揺らしながら、歩き出した。



(続く)



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