「降りるぞ」
という父親に従って、『少年』とその母親、妹は、『青バス』(広電バス)を降りた。
「ここが牛田だ」
と、父親は、満足げな表情で歩を進め始め、『少年』は、
「(いい『街』だ)」
と、閑静な住宅街を父親の背を追いながら、進んだ。しかし、『少年』は、自分の背を見ている存在には気がついていなかった。
「(王子様も、牛田なんじゃ!)」
それは、『少年』のことを、アメリカのテレビ映画『パパはなんでも知っている』の長男『バド』、いや、今は、『王子様』と見ている、バスに乗り合わせていたあの少女である。
「(『パパ』もここに住んどられるんじゃ。これまで見かけたことなかったんじゃけど)」
少女と共に、『少年』一家と同じバス停でバスを降りていた少女の母親も、『パパはなんでも知っている』の『パパ』のような『少年』の父親の背中を眼で追っていた。
「(何年生なんじゃろう?また会えるんじゃろうか?)」
『王子様』を自分と同じ年頃と見た少女は、同じ教室にいる『王子様』を夢想した。
「(どうしょう!?また、会うかもしれんけえ…)」
と思うと、母親は、脚を内股にし、体を微妙にクネらせた。
「どしたん、お母ちゃん?」
と訊く娘に、我に返った母親は、
「どうもせんよおね。行くよ」
と、名残り惜しさを隠しながら、『少年』一家とは、別の方向に体を向け、
「(そうよねえ。なんでもないんよ。ウチには、お父ちゃんいうヒトがおるんじゃけえ)」
と、お尻を左右に揺らしながら、歩き出した。
(続く)
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