「八丁堀に行くぞ」
まだ引越し荷物が片付かない牛田の新しい我が家で、『少年』の父親が、家族に宣言した。
「(え?お堀?)」
『少年』は、お城を巡るお堀を思い描いた。新しい我が家の部屋部屋を一通り家族に見せて回った後であった。
「(やっぱり、天守閣だ!)」
二階に上がり、窓から外を見ると、家の前は空き地が広がり、まだ登ったことはないが、天守閣の上からの景色は、かくありなん、と思えた、その後だったのだ。
「(下々の姿は見えなかったけど)」
『少年』にとって、初めての二階建ての我が家は、内も外も、それをお城、天守閣のように捉えた自分の期待に応える立派な造りであり、そこに住む、しかも、そこの景色のいい二階に(つまり、最上階に)住む自分は、お殿様になったような気がしていたところに、父親が、お城気分をさらに掻き立てる『堀』という言葉を口にしたのだ。
「八丁堀って、お城のお堀?」
と凝視めてきた息子に、父親はまた、聡明な回答を返した。
「ああ、元々は、広島城のお堀のあったところだ。今は、広島の繁華街さ。一番賑やかな街だ。外濠の長さが、『八丁』あったから『八丁堀』という地名になったらしい
「『八丁』?」
「一丁が、およそ109メートルだから、『八丁』は、870から880メートルくらいになるな。確か、『広島城八丁堀外濠跡』っていう石碑があったと思う」
「へええ~!広島って、凄いんだね。やっぱり歴史がある街なんだね!』
「今日の晩御飯は、『八丁堀』の『福屋』にしよう」
「え?」
『少年』は、口を開けたままにした。
(続く)
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