2021年10月14日木曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その16]

 


(んん….何か、寂しいなあ)」


『少年』とその家族を乗せた『青バス』(広電バス)は、広島駅南口から北口に回って進んでいた。『少年』は、軽い失望を口にはしなかったが、父親は、窓外の駅の北口側の街の様子を見る息子の横顔に、その失望を読み取った。


「随分、違うだろ」


という父親の言葉に、『少年』は振り向いて、父親を見た。


「こっちは北口なんだが、賑やかな南口とは、同じ駅には見えないだろ」

「どうしてなの?」

「どうしてかなあ….まあ、広島駅って、広島市の北の方にあって、そこから市が南に広がっている感じなんだ。だから、広島駅から電車もバスも南の方に行くものが多くて、どうしても南口に人が集まるんだと思う」


その時、『少年』の父親は、その後(1980年のことだ)、広島市が政令指定都市になるに伴い、区制が敷かれ、『広島市の北の方にある』と思っていた広島駅が、まさかな『南区』になるとは想像することができるはずもなかった。当時(1967年だ)の『広島市』と政令指定都市となった『広島市』とは同じではないのだ。政令指定都市になる前に周辺の郡部を編入し、『広島市』は拡大したのである。




「でもな、駅って、こんなものなんだよ」

「こんなもの?」


『少年』は、小首を傾げた。


「『南北問題』とでもいうのかなあ」

「え?『南北問題』?朝鮮とかベトナムみたいなことが、日本でもあるの?駅であるの?」


と、食いつくように父親に発した『少年』の言葉に、バスの後方の座席に座っていたあの母娘が共に、口を開け、そのままにした。『少年』とその父親をアメリカのテレビ映画『パパはなんでも知っている』の長男『バド』と『パパ』とであるように見ていたあの少女とその母親である。



(続く)




0 件のコメント:

コメントを投稿