2021年10月8日金曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その10]

 


「ああ、『青バス』は、これだよ」


『少年』の父親は、自分と妻と2人の子どもたちとで向っている広島駅前のバス停の一つに停車しているバスを指差した。


「これは、『広電バス』、つまり、『広島電鉄』のバスなんだが、車体に緑の線が入っているだろ。だから、『青バス』と呼ばれているんだ」


という父親の解説に、父親同様に聡明な『少年』は、疑問を呈することはしなかった。


「何故、『緑』の線なのに『青バス』なの?」


と訊くのは、愚問だと承知していたのだ。日本人が『緑』を『青』と表現することがあることは承知していたのだ。『青信号』だって、色は『青』ではなく『緑』だ。尤も、その時(1967年だ)、『少年』は、日本人が『緑』を『青』と表現するのが、色は元々は、『赤』、『青』、『黒』、『白』しかなく、『緑』は『青』の範疇に入れられて起因するらしいからであることをまだ知ってはいなかった。しかし、少々理屈は異なる、というか、逆な理屈ではあるが、


「(だって、どこからどう見ても自衛隊って、軍隊だけど、軍隊じゃないことになっているんだから)」


と、『少年』は納得していたのだ。


「(アメリカも、『米軍』を『米国自衛隊』という名前にすれば、武力を放棄した国になれるのに。それに、実際、『米軍』だって、自国を守る為の軍隊なんだろうし)」


とさえ思った。



「『広島電鉄』って、さっき見ただろ、『チンチン電車』。あの電車の会社だよ」


という父親の言葉に、


「(やっぱり『チンチン電車』だ)」


と、これも納得したが、若き日のビエール・トンミー氏である『少年』の頭には、まだ疑問が残っていた。



(続く)




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