「落ち着いて、ビエ君」
これから住む牛田という土地が、元々はお公家さんの領地であり、更には、『豊臣秀吉』や『徳川家康』とも関係がある『浅野家』とも所縁のある土地であることを父親か教わり、興奮の極みに達していた『少年』に、母親が声を掛けた。
「着いたのよ」
母親は、眼前の大きな家を指し示した。
「ええー!」
『少年』は、感嘆を声にした。
「(天守閣!?)」
眼前に天守閣が聳えていると見えたのだ。
「どうだ?これが、新しいウチだよ」
と、父親が自慢げに告げたのは、そう、天守閣ではなかったが、二階建ての大きな家であった。それまで、『豊臣秀吉』や『徳川家康』、『浅野家』のことを夢想していた『少年』は、その二階建ての大きな家が、天守閣に見えたのだ。
「二階があるんだね!」
我に戻った『少年』は、天守閣ではないものの、二階建ての家というものに興奮せざるを得なかった。『少年』にとっては、初の二階建ての我が家であったのだ。
「ああ、ビエールの部屋は、二階だぞ」
父親は、二階の窓を指差した。
「え!ボクの部屋が、二階!?まるで、お殿様みたいだ」
『少年』は、殿様が天守閣に居住していた訳ではないことは、知っていなくはなかったが、二階に、つまり、その時の妄想では天守閣にいる自分は、殿様と思えたのだ。
「そうだぞ、ビエールは、何しろ、トンミー家の跡取り、若様だからな」
父親は、息子が眼前の家を天守閣のように捉えていたとは知らなかったが、新しい我が家を気に入ったようである息子に話を合せた。
「(天守閣から、下々の生活ぶりを見るんだ)」
『少年』の妄想は、殿様気分を超え、『高き屋に のぼりて見れば煙立つ 民のかまどは賑わいにけり』と述べた仁徳天皇になったかの如くであった。
「ビエ君、さあ、ウチに入るわよ」
母親の声に、『少年』は、現実に戻った。
(続く)
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