2021年11月6日土曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その39]

 


本当に見られたん?!」


広島の老舗デパート『福屋』の大食堂の厨房の入り口に控えていたウエイトレスが、『少年』にハンバーグ定食を持って行ったウエイトレスに妬みのこもった質問をした。『少年』にハンバーグ定食を持って行ったウエイトレスが、ジェームズ・ボンドにも似たその『少年』に見られたことで興奮の極みに達していることを羨んだのだ。


「そうよねえ。ウチのこと見て、『有難うございます』云うてくれたんよ!」


顔を覆っていた両手を外したウエイトレスが、現した顔を輝かせた。


「それで、ウチい…」

「どしたん?」

「ええ~…」

「どしたんねえ?」

「云えんよおね。云わしんさんなやあ!」


『少年』に見られた方のウエイトレスは、見られたその時に生じた自身の体のある部分の『異常』を口にすることはできなかった。乙女の恥じらいであった。


……と、ウエイトレスたちが、抑えながらも嬌声を上げていた時、


「でも、自民党は、本当に『勝った』かどうかは別として、どうして、『黒い霧』があったのに『勝った』の?」


『少年』は、その年(1967年である)の1月に行われた第31回総選挙に関する父親の結果解説にまだ満足していなかった。


「うーん、どうしてかなあ。まあ、そうだなあ。野党が頼りなかったんだろうなあ。だから、国民は自民党に票を入れたんだろう」

「野党って、社会党?」

「ああ、そうだ」

「国民って、頼りない人より悪い人を選ぶの?」

「いや、国民みんなが、そうではないんだろうが、そんな国民もいたからなんだろうなあ」

「ボクは、お父さんが、国会議員に立候補すればいいと思う。そうしたら、国民も選択に困らないと思う。お父さんが、総理大臣になればいいと思う」




「ははははは!そう云ってくれるのは嬉しいが、それはないなあ」

「どうして?」

「父さんは、立候補しないよ」

「日本がダメになってもいいの?」

「そんなことはないさ。でも、立候補って、そんなに簡単にはできないのさ」


『少年』の父親は、最初は、笑って済ませようとしていた息子の質問への回答に、真剣に向き合おうとした。


(続く)




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