「ふぁああ…..」
『少年』とその家族にアイスクリームを持って行った広島の老舗デパート『福屋』の大食堂の主任が、魂を抜かれたように虚ろな眼差しで厨房の入口に戻って来た。
「主任、ずるいんじゃけえ!」
「職権乱用じゃあ」
ウエイトレスたちが、勝手にアイスクリームを持って行った主任を非難したが、
「ああような奥さん、ああようなお嬢さんは、広島で見たことないけえ」
と、主任の魂がまだ、身体に戻って来ていなかったその時も、『少年』の父親は、息子に質問を続けていた。
「ビエールは、何人だ?」
「….日本人だと思うけど….でも、そうなんだね。日本にも、ボクたちよりもっと昔から住んでいた人がいるんだよね。北海道のアイヌの人たち?」
「そうだな。先ず、『日本人』って国籍上のことを云うのか、『民族』としてのことを云うのかにも依ることを考えるべきだ。いや、更には、今、『日本』とされる地域に住む人間のことを云うのか、を考える必要もある。いずれの場合にしても、現時点でのことを云うのか、歴史的な視点から捉えるべきなのか、そういったことも考えるべきだろう」
「前提が、言葉の定義が大事、ということだね」
「次に、アイヌの人たちだが、確かに北海道に住んでいる人たちが多いのだろうが、北海道以外の都府県にも住んでいるだろうし、歴史的に見ても、北海道だけではなく、東北北部や樺太や千島にも住んでいたようだ」
「アイヌといえば北海道、と思い過ぎてもいけないんだね」
「そのアイヌに対して、アイヌではない、所謂『日本人』を『和人』とか、これも定義には依るんだが、『大和民族』とかいうんだけど、『和人』は多分、中国や朝鮮から渡ってきたと思われているんだ。天皇家だって、朝鮮の血が入っているとも云われているんだ」
「え?天皇って、『日本人』の象徴なんじゃないの?」
(続く)
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