2021年11月12日金曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その45]

 


「『ハンバーグ』という言葉を使うのは、今は、日本だけかもしれないんだ」


と、広島の老舗デパート『福屋』の大食堂で、『少年』の父親が、ハンバーグの名前の由来について問うてきた娘(『少年』の妹である)に対して、名前の由来以上の説明をしていた。


「え?『ハンバーグ』という名前は、アメリカでつけられたものなんでしょ?アメリカではもう、『ハンバーグ』って云わないの?」


『少年』の妹は、その質問と共に、透き通った視線を父親に向けた。


「そうらしいんだ。それに、アメリカでは、ハンバーグを今、ビエールが食べているようには食べず、パンに挟んで食べるんだ」

「それ、サンドイッチ?」


マクドナルドが、日本での第1号店を銀座にオープンさせるのは、それから(1967年から)4年後のことである。佐世保等の米軍基地の街では、米軍相手にハンバーガーを提供する店もできてはいたようであったが、日本ではまだ、ハンバーガーは馴染みのない食べ物であった。


「いや、パンといっても食パンではなくて、『バンズ』という丸いパンで挟むんだ。あ、そうだ、『ポパイ』知ってるだろ?」

「うん、知っているよ。『♫ポパーイ、ザ、セーラーマ~ン♫』でしょ?」




「そうだ。『ポパイ』に『ウインピー』っておじさんが出てくるだろ?」

「『ウインピー』?」

「太ったおじさんだよ。そのおじさんが、いつも手に持って食べてるものがあるだろ。あれだよ。あれは、『ハンバーガー』っていうんだ」

「ああ、あれね。でも、ハンバーグ・サンドイッチじゃなくって、『ハンバーガー』なの?」

「そうだ。ハンバーグを『バンズ』という丸いパンに挟んだのが『ハンバーガー』さ。アメリカでは、ハンバーグをそれだけで食べずに、『ハンバーガー』にして食べるのが普通らしいんだ」

「でも、どうして、ハンバー『グ』じゃなく、ハンバー『ガー』になるの?」


と、兄である『少年』が、ハンバーグ定食を黙々と食べているその横で、既に、お子様ランチを食べ終えた『少年』の妹は、父親に質問を重ねていた。


……『少年』とその家族のテーブルで、『少年』以外の両親と妹が食事を終えたのを見て、厨房の入口から『少年』とその家族の様子を窺っていたウエイトレスたちの一人が、云った。


「ウチ,水、持っていてあげるけえ」

「ええ、アンタが行くん?!」

「じゃって、ウチ、まだあのテーブル行っとらんもん」

「アンタあ、そそっかしいけえ、ダメよね」

「なんでえね?」

「アンタあ、『パパ』さんの匂いでクラクラして、『パパ』さんに水かけてしまうよ」

「あ~、ウチ、クラクラしたいんよお!」

「アンタあ、一人じゃ、危ないけえ、ウチも一緒に行ったげる」


と、ウエイトレスたちの中から2人が、夫々、お盆に2個ずつ水の入ったコップを乗せ、『少年』とその家族のテーブルに向った。


(続く)




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