「世界大恐慌って?」
と、広島の老舗デパート『福屋』の大食堂で、『少年』は、父親から、今の『原爆ドーム』である『広島県物産陳列館』で、1919年に日本で初めてバウムクーヘンを作ったドイツ人カール・ユーハイムに関する話題に端を発し、どうしてドイツが第1世界大戦の後、また世界大戦をするようになってしまったのかの説明を聞いていたが、父親から『世界大恐慌』という言葉を聞いたのであった。
「ああ、まだ学校で習っていないよな。『世界大恐慌』は、1929年にアメリカで株が大暴落してね。ああ、株は分るな?」
「うん、株式のことでしょ」
「そうだ、その株式がアメリカで大暴落したことから始って、世界中の経済がダメになって、不況になったのを『世界大恐慌』というんだ」
「どうして、株式がアメリカで大暴落したの?」
「第1世界大戦では、ヨーロッパは、戦場になったから、軍需物資とか色々な製品の製造ができなくなって、アメリカが輸出して、大儲けするんだ。戦後も、その状態が続いて、アメリカは大儲けして、アメリカ企業の価値がどんどん上って、株の値段も上っていったのさ。でも、ヨーロッパの元気が戻ってくると、そうもいかなくなって、1929年の10月24日に株が大暴落したんだ」
「で、ドイツはどうなったの?」
「ああ、アメリカはドイツにお金を投入することができなくなり、ドイツはまた苦しくなり、賠償金の支払いが滞るようなったし、それだけではなく、『世界大恐慌』で、各国が自分の国を保護するようになって、ドイツはますます苦しくなったのさ。アメリカは、関税を高くして他の国から輸入品が入りにくくなるようにしたし、イギリスやフランスは、『ブロック経済」といって、自分の国と自分の植民地の間で経済的な共同体を作り、その共同体の外からの関税を高くしたりしたんだ。でも、ドイツには、第1世界大戦の後、植民地はなかったから、より掲載的に苦しくなって、そこに、ヒットラーが出てくるが素地が作られたんだな」
『少年』の父親は、小学校を卒業したばかりの子どもにはまだ難しいかもしれない歴史に加えて、更に、経済についても、少々簡略化はしたものの、滔々と説明していっていた。
その時、『少年』の母親が、厨房の入口付近にいるウエイトレスたちの方に、手を挙げ、合図した。
「あ、『ママ』さんが呼んどってじゃ」
「追加の注文かねえ?」
「そうじゃろう。ウチ行ってくるけえ」
「なんねえ、アンタばっかし。ウチが行くけえ」
「アンタら、エエ加減にせえ。ワシが行ったる」
主任の男が割って入った。
「なんねえ、主任。あの『ママ』さんのところに行きたいんじゃろう」
(続く)
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