「ドイツって、本当にすごい国なんだね。でも…」
と、広島の老舗デパート『福屋』の大食堂で、『少年』は、今の『原爆ドーム』である『広島県物産陳列館』で、1919年に日本で初めてバウムクーヘンを作ったドイツ人捕虜であったカール・ユーハイムや他に日本人の生活に影響与えたドイツ人捕虜の話を父親から聞き、ドイツに対して畏敬の念を持ちつつも、いや、だからこその疑問を抱いたのであった。
「そんな凄い国なのに、どうしてドイツは、第1世界大戦の後、また世界大戦をするようになってしまったんだろう?」
『少年』は、少年らしくなく眉間に皺を寄せた。
「ドイツはね、第1世界大戦に負けて、多額のというか、とても払いきれないような額の賠償金を課せられたんだ」
「どのくらいの賠償金だったの?」
「1320億マルクだったらしい」
「マルクって、ドイツのお金の単位でしょ。1320億マルクって、何円くらいなの?」
「そうだなあ、今だと、300兆円とか400兆円くらいかなあ」
「えええー!想像できないよ、そんなお金!」
「だろう。だから、ドイツは大変だったのさ。だけど、勝った国の中でもフランスなんかは、第1世界大戦で国がボロボロになって賠償金が必要ではあったようなんだ。でも、ドイツが賠償金をちゃんと払わないから、フランスは、ベルギーと、ドイツのルール地方を占領したんだ」
「どうして?ルール地方ってどういうところなの?」
「炭鉱がありドイツ最大の工業地帯なんだ。経済的に重要な地域だ」
「ああ、だからフランスは、ルール地方っていうところを占領したんだね。でも、占領されたドイツも大変だね」
「ああ、だから、ルール地方の労働者たちがストライキをしたりして抵抗したんだそうだが、そのせいでドイツの経済はガタガタになったんだ。でも、アメリカに助けてもらうんだ。アメリカに、お金を貸してもらったり、賠償金を減らしてもらうように調整してもらったりするんだ」
「どうして、アメリカがドイツを助けるの?」
「第1世界大戦の間、アメリカは、イギリスやフランスにお金を貸していたんだ。だから、ドイツに立ち直ってもらい、賠償金をイギリスやフランスに払えるようにすれば、貸していたお金も返してもらえるからさ」
「ああ、自分の為なんだね」
「だけどだ、そこに世界大恐慌が起きるんだ」
『少年』の父親は、小学校を卒業したばかりの子どもにはまだ難しいかもしれない歴史について、少々簡略化はしたものの、滔々と説明していっていた。
『少年』の父親の説明を聞き齧り、少し前にプロレスラー『カール・アッチとかコッチとか』について話していたテーブルの男たちが、また、『少年』とその父親の会話を聞き齧り、囁き合った。
「おい、やっぱり、相撲じゃのうて、プロレスの話ししとるようじゃ」
「なんでや?」
「ルールとか、抵抗したとか云うとったんよ」
「ああ、プロレスいうんは、5カウントまで反則してエエんじゃろ。そうようなんおかしいで。プロレスは、ショーじゃろう」
「何、云いよるんならあ!反則されても、それに抵抗して、相手をやっつけんといけんのじゃけえ、大変なんよ」
「なんか太ったレフリーが反則見て見んふりするんじゃろ。やっぱり、ショーじゃ」
「ああ、沖識名(オキシキナ)かあ。アイツは好かん。じゃけど、沖識名は、昔、アメリカで強いプロレスラーじゃったと聞いたことあるで。力道山にプロレスを教えたんも、沖識名なんで」
「いつもシャツ破られとる情けない奴にしか見えんけどのお」
(続く)
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