「へええ、ドイツでは、職人になるにも資格がいるんだ」
と、『少年』は、頷いた。広島の老舗デパート『福屋』の大食堂で『少年』の父親は、自身のモンブランの万年筆『マイスターシュテュック』(Meisterstück)に関連して、ドイツの『マイスター』制度について、『少年』に説明していた。
「ドイツでは、『家事マイスター』だってあるんだよ」
「じゃあ、お母さんは、『家事マイスター』だね」
「まあ、ビエ君ったら」
『少年』の母親が、片手で頬を抑え、もう一方の手で『少年』の肩を叩いて、照れた。
「そうだね。『マイスター』って、本当に凄い人なんだ。母さんのようにね」
「まあ、お父さんまで」
「だから、ドイツ語の『マイスター』は、英語の『マスター』とはちょっと違う、というか、もっともっと凄い人のことなんだ。だから、『マイスターシュテュック』というのは、まさに本当の『匠』の作った『もの』という意味で、素晴らしいものを意味するんだよ。つまり、この『マイスターシュテュック』は、まさに、『モンブラン』を代表する万年筆なんだ」
「だから、『ホワイトスター』だけじゃなくって、『モンブラン』の標高も付けられているんだね!そんな『モンブラン』を作ったドイツって、凄い国なんだね。いつか行ってみたいな」
「そういえば、ここ広島だって、ドイツとの関係が深いんだよ。バウムクーヘンってお菓子知ってるだろ?」
「ええ!バウムクーヘン!私、大好きー!」
『少年』の妹が、右手を上げて、宣言した。
…..その様子に、厨房の入口付近から見ていたウエイトレスたちが、反応した。
「あれ、注文じゃろうか?あの子、手を上げたけえ」
「でも、こっち見とらんよ」
「ほうよねえ、学校の授業で手を上げとるみたいじゃねえ」
「あの子、綺麗なだけじゃのうて、頭も良さそうじゃけえね」
「アタシなんか、授業で手を上げたことないけえ」
「ああような娘持ちたいねえ」
「なんねえ、アンタ、付き合うとる男の人もおらんのに、娘なんかできんじゃろうに」
「『ジェームス・ボンド』と結婚するけえ!」
「何云うとるん。あの子、まだ中学生くらいじゃないねえ」
「ええんよね。姉さん女房になったげるけえ」
「ほいじゃったら、ウチは、『パパ』さんと….」
「ええー!」
(続く)
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