2021年11月16日火曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その49]

 


「へええ、ドイツでは、職人になるにも資格がいるんだ」


と、『少年』は、頷いた。広島の老舗デパート『福屋』の大食堂で『少年』の父親は、自身のモンブランの万年筆『マイスターシュテュック』(Meisterstück)に関連して、ドイツの『マイスター』制度について、『少年』に説明していた。


「ドイツでは、『家事マイスター』だってあるんだよ」

「じゃあ、お母さんは、『家事マイスター』だね」

「まあ、ビエ君ったら」


『少年』の母親が、片手で頬を抑え、もう一方の手で『少年』の肩を叩いて、照れた。


「そうだね。『マイスター』って、本当に凄い人なんだ。母さんのようにね」

「まあ、お父さんまで」




「だから、ドイツ語の『マイスター』は、英語の『マスター』とはちょっと違う、というか、もっともっと凄い人のことなんだ。だから、マイスターシュテュック』というのは、まさに本当の『匠』の作った『もの』という意味で、素晴らしいものを意味するんだよ。つまり、このマイスターシュテュック』は、まさに、『モンブラン』を代表する万年筆なんだ」

「だから、『ホワイトスター』だけじゃなくって、『モンブラン』の標高も付けられているんだね!そんな『モンブラン』を作ったドイツって、凄い国なんだね。いつか行ってみたいな」

「そういえば、ここ広島だって、ドイツとの関係が深いんだよ。バウムクーヘンってお菓子知ってるだろ?」

「ええ!バウムクーヘン!私、大好きー!」


『少年』の妹が、右手を上げて、宣言した。


…..その様子に、厨房の入口付近から見ていたウエイトレスたちが、反応した。


「あれ、注文じゃろうか?あの子、手を上げたけえ」

「でも、こっち見とらんよ」

「ほうよねえ、学校の授業で手を上げとるみたいじゃねえ」

「あの子、綺麗なだけじゃのうて、頭も良さそうじゃけえね」

「アタシなんか、授業で手を上げたことないけえ」

「ああような娘持ちたいねえ」

「なんねえ、アンタ、付き合うとる男の人もおらんのに、娘なんかできんじゃろうに」

「『ジェームス・ボンド』と結婚するけえ!」

「何云うとるん。あの子、まだ中学生くらいじゃないねえ」

「ええんよね。姉さん女房になったげるけえ」

「ほいじゃったら、ウチは、『パパ』さんと….」

「ええー!」



(続く)





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