「バウムクーヘンってね、元々は、ドイツのお菓子なんだ」
と、広島の老舗デパート『福屋』の大食堂で『少年』の父親は、自身が持つドイツ製の万年筆『モンブラン』の話から、ドイツの『マイスター』制度について、『少年』に説明していたが、話は、バウムクーヘンについてへと展開していっていた。
「『バウム』ってドイツ語で『木』のことなんだ。『クーヘン』は、『ケーキ』さ」
という『少年』の父親の説明を聞き終えない内に、『少年』の妹が、両手で円を作りながら、云った。
「ああ、バウムクーヘンって、こんなに丸くて、中が年輪みたいになってて、ホント、木みたいね!」
『少年』の妹は、そう父親の説明に素直に納得したが、
「でも、バウムクーヘンと広島って、どんな関係があるの?」
と、『少年』は、事の本質を逃さず、質問した。問題は、バウムクーヘンの名前の意味ではなく、父親が、広島とドイツとが関係が深いことに関連してバウムクーヘンを持ち出してきたことを忘れていなかったのだ。
「バウムクーヘンが日本で最初に作られたのが、広島なんだ」
「ええ!そうなの?」
「バウムクーヘンを日本で最初に作ったのは、ドイツ人のカール・ユーハイムという人なんだ。今もある『ユーハイム』という洋菓子の会社は、カール・ユーハイムさんが、作った会社だ。そのユーハイムさんが、1919年に、『広島県物産陳列館』の『ドイツ作品展示会』で、日本で初めてバウムクーヘンを製造して販売したんだそうだ。あ、 広島県物産陳列館というのは、今の『原爆ドーム』のことだよ」
「ええ!?」
『少年』は、やや声高に、非難の色のついた言葉を父親に向け、発した。
『少年』のその声に、『少年』とその家族のテーブルからやや離れたテーブルの人たちも、『少年』の方に顔を向け、囁き合った。
「あれ、あの子、どうしたんじゃろ?親子ゲンカかのお?
「なんか、そうようなもんクエヘンとか云うとった?」
「ここの料理は美味しいと思うけどのお」
「でも、お嬢さんは、なんかニコニコしとるで。手でなんか丸作っとって、可愛いのお」
「ワシ、ああよおな子と結婚したいのお」
「何、云うとるんや。可愛い云うか、もの凄う美人さんじゃけど、ありゃ、まだ小学生じゃあ思うよ」
「ワシ、あの子、小学生でも構わんけえ」
「何、カバチタレよんなら」
(続く)
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