「奥様、お待たせしました。アイスクリームでございます」
広島の老舗デパート『福屋』の大食堂の主任が、『少年』とその家族が注文したアイスクリームを持ってきた。
「うわあ!美味しそう!」
『少年』の妹が、自分の前に置かれた、アイスクリームを見て、両方の口の端を上げた。ステンレスの足付きカップに入った食堂のアイスクリームには、特別感がある。
「(おお、なんと愛くるしい!)」
と、少女に見惚れている主任の方に顔を向け、少女の母親が、声をかけた。その時、少し風が流れた。
「(ああ、美しい!芳しい!)」
主任がしばらく、少女と少女の母親の間で呆然と立ち尽くしている時も、『少年』の父親は、息子に、ヒットラーに関連してヨーロッパ史の説明を続け、
「ヒットラーが、ユダヤ人だったというのは、あくまでそういう説もあるらしい、ということだ。それよりも、そもそも、『何人』ということにどれだけの意味があるのか?」
と、更には、人間そのものに関わるテーマを口にし始めていた。
「アメリカ人って、誰だと思う?どんな人がアメリカ人だ?」
「うーん….背が高くて、金髪で、いや、金髪じゃない人もいると思うけど、あ、いや、白人だけじゃなくって、黒人の人もいて…」
「先ず、『アメリカ人』という時の『アメリカ』を定義しよう。『アメリカ合衆国』のこととしよう。で、その『アメリカ合衆国』に今、住む白人や黒人、それに、日系やアジア系、インド系、中東系の人なんかもいると思うが、そういった人も確かに『アメリカ人』だろう。でも、その人たちは、主に移民でアメリカに来た人たちだろう」
「あ、元々の『アメリカ人』って、インディアンだね!」
「む、『インディアン』か….ビエールが、西部劇なんかで見る『インディアン』の人たちって、本当に『インディアン』なのか?」
「え?違うの?」
「『インディアン』って、『インドの人』という意味だよ。アメリカの『インディアン』の人って『インドの人』なのか?」
「違うよね」
「そうだ。アメリカの『インディアン』って、アメリカに元々住んでいた人たちで、『インドの人』ではない。コロンブスが、アメリカ大陸を発見した時に、そこをインドだと思ったことから、『インディアン』と呼ばれるようになったんだ。まあ、その頃の『インド』って、今のインドのことではなく、今の東アジアのことをヨーロッパに人たちは『インド』と思っていたようなんだけどね。それに、コロンブスが、アメリカ大陸を発見した、というのも正しくはないんだ。コロンブスが到達したのは、アメリカ大陸近くのサン・サルバドル島だからね。それに、アメリカ大陸を発見したという云い方自体、ヨーロッパから見た云い方だ」
「そうだね。だって、そこにはもう、『インディアン』の人たちが、いや、『インディアン』の人たちと今、呼ばれる人たちがいたんだものね」
「もっと云うとな、そのアメリカに元々住んでいた人たちだって、実は、多分、アジアから移り住んだと思われているんだ」
「え?」
「そのアメリカに元々住んでいた人たちって、所謂、白人や黒人よりも、アジア人に似ているだろう。アジアの人たちが、シベリアからアラスカに渡ったんじゃないかと思われているんだ。こうなると、何が、誰が、『アメリカ人』なんだ、と、父さんは思う」
(続く)
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