2021年12月7日火曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その70]

 


『福屋』って、とってもいい百貨店だと思うが、今度は...」


と、『少年』の父親は、言葉に一瞬の間を空けた。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族は、帰宅の為、えびす通りをバス停に向っていたが、『福屋』を気に入った『少年』が、『福屋』にまた来たい、と父親にお願いしてきたのだ。


「あそこにも行ってみよう」


『少年』の父親は、中央通りを挟んだ斜め向こうに聳えるビルを指差した。


「え?あれは?」


『少年』は、父親が指し示したビルを見上げて、訊いた。


「『天満屋』だよ。百貨店だ」

「『てんまや』?」

「こう書くんだ」


『少年』の父親は、また手帳を取り出して開き、そこに、自身のモンブランの万年筆で、『天満屋』と書いた。


「『福屋』の他にもデパートがあるの?」


と、見た『天満屋』のビルの西南の玄関は、確かにデパート然としたものであった。


「広島は、大きな街だからな」

「大きなデパートが2つもあるなんて、広島って、凄い街だね!」

「でもな、『天満屋』は、広島の百貨店ではないんだ」


『少年』の父親は、またしても思い掛けない言葉を口にした。その時、


「(ええ!あれは!)」


えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道の反対側(『天満屋』側)で信号待ちする20歳代後半と思しき女性が、手にする『天満屋』の紙袋を落としそうな程に、忘我した。


「(『キャップ』!?)」


横断歩道の反対側で、中央通りの方向に向ってくる『少年』の父親を、当時、人気番組となっていたテレビ・ドラマ『ザ・ガードマン』の『キャップ』、つまり、宇津井健と見間違うたのであった。


「(広島で事件?)」


『ザ・ガードマン』のガードマンたちは、ガードマンといっても、今(2021年である)の人たちがイメージする制服を着た警備員のガードマンではなく(『ザ・ガードマン』は、今の『セコム』[当時の社名は、日本警備保障株式会社]をモデルにし、協力を得ていたそうであるが)、スーツを着て、刑事のように、それもダンディーな刑事のように捜査をする男たちであった。その中でも、宇津井健演じる『キャップ』こと『高倉隊長』は、頼もしくも凛々しい存在であった。




(続く)




0 件のコメント:

コメントを投稿