2021年12月26日日曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その89]

 


「袈裟も、元は、『梵語』、つまり、『サンスクリット語』の『カシャーヤ』 という言葉なんだ」


と、説明はしたものの、さすがの『少年』の父親も、『カシャーヤ』を、『梵字」、つまり『サンスクリット語』で書くことはできなかった。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、オランダ人として日本に入国したものの、実はドイツ人の医者であったこと、更には、日本の女性との間に娘をもうけたことを説明したところ、『少年』が、『シーボルト』は日本で日本の女性と結婚したんだね、と確認してきた為、当時(江戸時代)の結婚というものの説明まで始めることとなり、結婚の際に必要となった書類の説明に関連して、宗教、宗派のことまで語り出し、その時は、『檀家』と『門徒』の説明となっていた。そして、その説明は、更に、『檀家』の言葉の由来として、『サンスクリット語』について語っていた。


「『カーシャーヤ』 は、本来は、『壊色』(えしき)という汚く濁った色、というか、『汚れた』という形容詞だったようなんだ」


と、少年』の父親は、今度は、取り出して開いたままであった手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『壊色』と書いた。


「袈裟は、財産を捨てて仏教の修行をするお坊さんが身に纏うものだから、華やかな原色ではなくて、着る物への執着がないよう『壊色』(えしき)にしたんだそうだ」

「その袈裟の布をお坊さんに差し上げるのが、『檀家』で、それはつまり『檀那』で、それも、袈裟と同じように、『サンスクリット語』の『ダーナ』から来ている言葉なんだったね。その『ダーナ』ってどういう意味なの?」


『少年』は、父親がどれだけ話を派生させていこうと、元々の問題を忘れない。


「『ダーナ』は、『サンスクリット語』で『与える』という意味なんだ。この『ダーナ』は、フランス語や英語にもなっているんだ」

「ええ?『ダンナ』が、フランス語や英語に?」

「いや、別に『檀那(旦那)』が、フランス語や英語になった訳ではなく、『檀那(旦那)』と同じように、『サンスクリット語』を語源とする言葉が、フランス語や英語にある、ということなんだ。フランス語に、『donner』(ドネ)という言葉あるんだが」


と、少年』の父親は、取り出して開いたままであった手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『donner』と書いた。


「これは、『与える』という意味なんだ」

「ああ!」

「英語には、『donation』(ドネイション)という言葉がある。これは、名詞で、動詞では『donate』(度ネイト)で、それぞれ『寄付』、『寄付する』という意味だ」


と、少年』の父親は、取り出して開いたままであった手帳に、自身のモンブランの万年筆で、今度は、『donation』『donate』と書いた。




「まさに、『サンスクリット語』の『ダーナ』だね!そして、『ダンナ』も、袈裟やお金をお坊さんに与える、というか、差し上げる人のことで、『donner』(ドネ)や『donation』(ドネイション)と同じような意味なんだね。でもお……


と、『少年』が、『檀那(旦那)』の語源を理解するに至りはしたものの、まだ、納得しきれていない様子を見せた時、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道の反対側(『天満屋』側)では、信号待ちする『ノートルダム清心』の制服を着た高校生らしき少女の父親が、


「はああん?育ての親が、実の親を作ったんか?子どもより、親の方が後から生まれたんか???」


と、大人気なく、娘にくってかかった。アトムの育ての親である『お茶の水博士』が、アトムに両親になるロボットを作ってやった、ということは、理屈に合わないと父親は主張したのだ。


「はああん!?アトムは、ロボットなんよ!」


少女も負けじと父親に牙をむいた。


「それがどしたんなら」

「ロボットの世界は、人間の世界とは違うんよ!」

「どう違う云うんなら?」

「ウチにそれ云わすんね?」



(続く)




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