「『ネーデル』(Neder)は、『低い』という言葉で、『ランド』(land)は、『国』とか『地域』という意味だと思う」
と、『少年』の父親は、取り出して開いたままであった手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『Neder』、『land』と書いた。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、ドイツ人の医者ながらも、オランダ人として、日本に入国したことを説明したところ、『少年』は、『シーボルト』がオランダ語はできたのか、という疑問を抱き、『少年』の父親は、『シーボルト』は、オランダ語ができたといえばできたようだ、と説明し、オランダとドイツとの関係を説明しながら、『オランダ』の正しい国名『ネーデルラント』の説明をしていた。
「ああ、『オランダ』って、いや、『ネーデルラント』って、海抜ゼロメートル以下の土地が多いからだね」
『少年』は、今なら(2021年の今なら)、『池上彰』の『ニュースそうだったのか!!』等の番組の優秀な生徒となれるであろうような発言をした。
「そうだ。『ネーデルラント』の国土の4分の1は、海抜ゼロメートル以下だそうだからな。だから、『オランダ』のことは、フランス語でも『ペイ・バ』と呼ぶんだ」
と、『少年』の父親は、取り出して開いたままであった手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『Pays-Bas』と書いた。
「『ペイ』(Pays)は『国』で、『バ』(Bas)は『低い』という言葉だ。つまり、『低い国』だな。『アフシュライトダイク』という世界最大の堤防が、『ネーデルラント』にはあるくらいなんだ。『アフシュライト』が『締め切る』という意味で、『ダイク』が『堤防』だ。海だったところに、堤防を作って湖を作ったんだそうだ」
と、『少年』の父親は、取り出して開いたままであった手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『Afsluitdijk』と書いた。
「でも、『ネーデルラント』が『低い国』であることを江戸時代の日本人は知らなかったんだろうな」
「え?それって、どういうことなの?」
「『シーボルト』が、オランダ人だとして日本に来た時、日本の通詞、まあ、通訳だな、その通訳が、『シーボルト』のオランダ語の発音が変だ、と思ったらしいんだ」
「そりゃそうだよね。『シーボルト』はドイツ人だもの」
「しかし、『シーボルト』は、その疑惑を上手く、というか、変な理屈で誤魔化したんだそうだ」
「変な理屈って?」
と、『少年』とその父親の会話が、ようやく『シーボルト』の話題に戻ってきた時、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道の反対側(『天満屋』側)では、信号待ちする『ノートルダム清心』の制服を着た高校生らしき少女の隣で、
「アンタあ、高校生の娘に何、云うんね!」
と、少女の母親が、夫を叱責していた。
「マリリン・モンローのああようなんの、どこがエエんね」
少女の父親が、少女が『トニー.カーチス』の名前を出したことから、『トニー.カーチス』が映画で共演した『マリリン・モンロー』のことが喚起され、『マリリン・モンロー』が、映画『七年目の浮気』の中で、地下鉄の通気口の上に立ち、スカートがめくれ上がったことを思い出しては、涎を流さんばかりとなっていたのだ。
「そりゃ、お前のより良かろうがあ」
「もう、アンタになんか見せたげんけえ。見せるんじゃったら、あそこの『キャップ』みたいな人にじゃ」
と、少女の母親は、横断歩道の反対側を指差した。
(続く)
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