2021年12月22日水曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その85]

 


「ああ、庄屋』が作成する『所請状之事』は、『人別送り状』ともいうもので、戸籍を移す書類だったようだ。『宗門人別帳』とか『宗門人別改帳』というものがあって、それはまあ、今でいえば戸籍簿みたいなもんなんだが」


と、『少年』の父親は、取り出して開いたままであった手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『宗門人別帳』、『宗門人別改帳』と書いた。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、オランダ人として日本に入国したものの、実はドイツ人の医者であったこと、更には、日本の女性との間に娘をもうけたことを説明したところ、『少年』が、『シーボルト』は日本で日本の女性と結婚したんだね、と確認してきた為、当時(江戸時代)の結婚で必要であった書類の説明を始めていた。


「『人別送り状』は、該当する人をそこから戸籍を抜くので、受けた方で『宗門人別帳』に加えて下さい、というものなんだ」

「へええ、昔から戸籍みたいなものがあったんだね。でも、『人別帳』なんて云い方、なんだか時代劇みたいな感じだね」


と、『少年』は、不思議の感を持ちながらも納得したといった風情で頷いた。


「そりゃ、そうだろう。江戸時代のことなんだから、まさに時代劇の時代のことさ」

「時代劇の時代って、本当に時代劇の中で出てくるような時代だったんだね」

「その時代に関連して大事なのは、『宗門』と云う言葉だ。『宗門』という言葉が付いているのは、キリスト教が禁止されていたからなんだ。『宗門人別帳』は、そこに書かれている人がキリスト教の信者ではなく、何々教の何々宗派だということを証明することも兼ねていたからなんだ」

「『宗門人別帳』というものが本当にあったと聞くと、その時代は、本当にキリスト教が禁じられていたんだなあ、と思う。今なら、とても考えられないことが、その時代にはあったんだね」

「『離旦證文』の方は、まさにその宗教に関わる種類でね、『離旦證文』の『離旦』は、こうも書くんだ」


と、『少年』の父親は、取り出して開いたままであった手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『離檀』と書いた。


「この『離檀』の『檀』は、『檀家』の『檀』なんだ。『檀家』って知っているだろ?」


と、今度は、『少年』の父親が宗教に関わる説明までし始めた時、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道の反対側(『天満屋』側)では、信号待ちする『ノートルダム清心』の制服を着た高校生らしき少女のその母親が、


「アンタこそ、『青大将』みたいな顔しとるくせに」


と、『若大将』シリーズのマドンナ役で、すき焼き屋『田能久』の娘を演じる女優『星由里子』の名前を出して自分のことを貶してきたおっちに対抗して、『若大将』の敵役で『田中邦衛』演じる『青大将』を持ち出してきた。


「何、云いよるんならあ。ワシは、『若大将』の方じゃろうが」


と、少女の父親は、『田中邦衛』のように、ひょっとこのように口を突き出して、妻に文句を云った。




「はああ~ん?アンタあ、『青大将』じゃなかったら、『ばか大将』よおね」


と、妻は、怯まず、二の矢を放つ。



(続く)




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