「『天満屋』って、広島のデパートではないの?」
『少年』は、父親に怪訝の表情を向けた。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時であった。
「でも、そこにあるよ」
『少年』は、父親が眼の前にあるデパート『天満屋』の存在を教えてくれながらも、『天満屋』は、広島の百貨店ではない、とトンデモナイことを云い出したのだ。
「そこにある『天満屋』は、確かに、広島の百貨店だし、ビエールと同級生なんだ」
「え!?ボクと同級生?」
一つの疑問が解かれぬ内の新たな疑問の発生に、聡明な『少年』の頭脳もさすがに混乱をきたした。
「そうだ。広島の『天満屋』ができたのは、1954年なんだ」
「そうなんだ。ボクの生れた年だね。だから、『同級生』なんだね」
「広島の『天満屋』は、元々は『天満屋』ではなく、『広島中央百貨店』という百貨店だったそうなんだが、経営が良くなくなって、『天満屋』の出資を受け、『広島天満屋』になったということだ。それが、1954年なんだ。その後に、『天満屋』そのものになって、広島の『天満屋』は、『天満屋広島店』になったらしい」
「『天満屋』の出資を受けて、とか、『天満屋』そのもの、って、『天満屋』はそれまでどこにあったの?『天満屋』って何なの?」
「『天満屋』はな、岡山の百貨店なんだよ」
『少年』の父親が、『少年』が想像だにしなかったであろう言葉を口にした。その時、
「(ええ!あの子!)」
えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道の反対側(『天満屋』側)で信号待ちする『ノートルダム清心』の制服を着た高校生らしき少女が、思わず手を口に当てた。
「(『トニー』!?)」
と、外国人の名前を発したその少女は、『少年』の父親のことを『ザ・ガードマン』の『キャップ』こと『高倉隊長』(つまり、宇津井健)と見間違うた20歳代後半と思しき女性の近くに、両親と共に立っていた。
「はあん?『トニー』?『トニー谷』がどこにおるんじゃ?」
少女の父親が、訊いた。当時、素人のアベックが出てきて歌を歌うテレビ番組『アベック歌合戦』で、『♫アナタのお名前、なんてえの?』とアベックに訊く司会の『トニー谷』が、まさかそこにいるとは思えなかったのだ。
(続く)
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