2022年1月7日金曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その101]

 


「『ナポレオン法典』という名前は、今でも廃止されていないとは聞くが、今は、単に『コード・シヴィル』(Code civil)、つまり、『民法典』と呼ばれているらしい」


と、『少年』の父親も、牛田方面に向う『青バス』(広電バス)の中で、派生していっていた話のテーマを再び、『ナポレオン法典』に戻してきた。


「でも、『ナポレオン法典』は、今でもフランスの民法なんだ。勿論、色々と改定されてきてはいるけどな。そのフランスの民法が、『コード・ナポレオン』(Code Napoléon)なんだ」


と、『少年』の父親は、派生した話を巻き戻していく広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、オランダ人として日本に入国したものの、実はドイツ人の医者であったこと、更には、日本の女性との間に娘をもうけたことを説明したところ、『少年』が、『シーボルト』は日本で日本の女性と結婚したんだね、と確認してきた為、当時(江戸時代)の結婚というものの説明まで始めることとなり、結婚の際に必要となった書類の説明や、それに関連した宗教、宗派のこと等を説明し、『少年』の理解を得た。しかし、『少年』は、『シーボルト』は、要するに、日本の女性とどう結婚したのか、という質問に立ち戻ってきた為、『少年』の父親は、そもそも国際結婚は今でも容易ではないことを説明し、国際結婚ががちゃんと認められるようになったのは、明治6年に制定された明治6年に制定の『内外人民婚姻条規』であり、その法律の制定にあたり参考にされたという『ナポレオン法典』についての説明を続けていたが、説明はそこから『ハンムラビ法典』へ、更には、『旧約聖書』へと派生していっていたものを再び、『ナポレオン法典』へと戻していくのだ。


「でも、『コード・ナポレオニヤン』という場合もあるんだよね?『サンク・コード・ナポレオニヤン』の方がいいんだったっけ?

「その通りだ」

「で、『サンク』って、『5』だったんだよね?」


『少年』は、横に置かれたままとなっていた問題をそのままとはしない。


「『民法典』の他に、『ナポレオン』の許で制定された他の4つの法典を含めて、『サンク・コード・ナポレオニヤン』(cinq codes napoléoniens)と呼ばれるんだよ」


と、『少年』の父親は、取り出したままにしていた手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『Code de commerce』、『Code de procédure civile』、『Code pénal』、『Code d'instruction criminelle』と書き、その一つ一つを指しながら、


「『商法典』、『民事訴訟法典』、『刑法典』、『治罪法典』だ」


と、説明した。


「ナポレオンが作ったのは、『民法』だけじゃなかったんだね」

「この『サンク・コード・ナポレオニヤン』(cinq codes napoléoniens)は、『内外人民婚姻条規』だけではなく、日本に大きな影響与えたんだ。『権利』とか『義務』、『動産』、『不動産』という言葉を知っているだろう?」

「うん。『どうさん』って言葉は、あまりよく知らないけど」

「ああ、『動産』って言葉は、聞いたことがないかもしれないなあ。『不動産』って、土地や土地にくっ付いている建物なんかのことを云うんだが、『動産』は」


と、『少年』の父親は、取り出したままにしていた手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『動産』と書き、説明を続けた。


「『不動産』以外のものを『動産』と云うんだ。ただ、『動産」って、実は結構、理解するのは、難しいものだ。『動産』のように思えるものでも、『登記』が必要なものは、ああ、『登記』って知っていると思うけど、それを持っていることを登記簿という公式な書類に記載することなんだけど、『登記』が必要なものは、『不動産』扱いされることもあるんだ。大きな船なんかがそうなんだよ」




「ふううん….なんだか難しいけど、その『動産』とか『不動産』という言葉が、『サンク・コード・ナポレオニヤン』の影響を受けているんだね?」


と、『少年』が、少々難解な父親の説明に必死でついていっていた時、


「名前だけではなく、『岸田森』って役者、なんか顔も変というか、少し怖いというか、独特だったなあ。でもお…」


バスの中の他の誰にも聞き取れない程度の小さな声が、呟きを続けていた。前年(1966年)にテレビ・ドラマ化もされた三浦綾子・原作の『氷点』のヒロインの少女『陽子』の『兄』にして、『陽子』の恋情を抱く人物を演じた『岸田森』のことを評しているようではあったが….


(続く)




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