2022年1月20日木曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その114]

 


「じゃあ、どうして、『ろけん』が、『ところあらわし』なの?」


と、『少年』が、『露顕』という言葉、漢字が、『ろけん』でもあり、『ところあらわし』でもあることについて、父親の疑問を呈した。牛田方面に向う『青バス』(広電バス)の中であった。


「『露顕』(ところあらわし)って、披露宴なんだし、悪いことをする訳でも、した訳でもないんじゃないの?」


と、『少年』は、『露顕』という言葉、漢字が、『ろけん』でもあり、『ところあらわし』でもあることは、むしろ矛盾しているのではないかと主張した。広島の老舗デパート『福屋』本店の南側出口(えびす通り玄関)を出た『少年』とその家族が、帰宅の為、えびす通りをバス停に向い、えびす通りと中央通りとの交差点の横断歩道近くまで来た時、父親は、中央通りの向こう側に聳える百貨店『天満屋広島店』を指差しながら、『天満屋』の歴史を語り出した。そして、『天満屋』の創業の時代、『文政』年間に、『シーボルト』が来日した、と説明し、更に、その『シーボルト』が、オランダ人として日本に入国したものの、実はドイツ人の医者であったこと、更には、日本の女性との間に娘をもうけたことを説明したところ、『少年』が、『シーボルト』は日本で日本の女性と結婚したんだね、と確認してきた為、当時(江戸時代)の結婚というものの説明まで始めることとなり、結婚の際に必要となった書類の説明や、それに関連した宗教、宗派のこと等を説明し、『少年』の理解を得た。しかし、『少年』は、『シーボルト』は、要するに、日本の女性とどう結婚したのか、という質問に立ち戻ってきた為、『少年』の父親は、そもそも国際結婚は今でも容易ではないことを説明し、国際結婚ががちゃんと認められるようになったのは、明治6年に制定された明治6年に制定の『内外人民婚姻条規』であり、その法律の制定にあたり参考にされたという『ナポレオン法典』について説明し、『ナポレオン法典』を『仏蘭西法律書』という名前の書物に翻訳した『箕作麟祥』(みつくり・りんしょう)のこと、『箕作麟祥』の師である『坂野長英』、更には、同じく『坂野長英』を師とした『高野長英』、箕作麟祥』の父親である『箕作阮甫』のことまで説明していたが、ようやく話のテーマは、当時(江戸時代)の結婚へと戻ってきたところで、『結婚とは何か?』という根元的なものへと展開してしまい、父親が、古墳時際には、『妻問婚』(つまどいこん)という、夫が妻のところに通う結婚が一般的だったと説明したところ、『少年』は、『妻問婚』の場合、いつから結婚したことになるのか、と問い、父親は、回答に苦しみながら、『三日餅』(みかのもちひ)、そして、それを食べる、今でいう披露宴のようなものである『露顕』(ところあらわし)を説明したが、『少年』は、その言葉の意味に納得しかねているのであった。


「うーむ….確かに、悪いことじゃあないんだが、男が女の人のところに、こっそり通っているところを見つけるから、『露顕』という言葉、漢字を使ったんだろうな。『ところあらわし』は、こう書くこともあるようなんだ」


と、『少年』の父親は、取り出したままにしていた手帳に、自身のモンブランの万年筆で、『所顕』と書いた。


「夫が、妻のところに通うのは、悪いことじゃないでしょ?それに、そのことをどうして、『見つける』なんて云い方をするの?」

「ああ、勿論、悪いことじゃないんだが、まあ、ああ、そのお…そう、そうだなあ、『露顕』(ところあらわし)で『三日餅』(みかのもちひ)食べるまでは、まだ男は夫ではないし、女の方もまだ妻ではないからなあ」

「男の人と、奥さんになる人が仲良くするんだから、空き巣するみたいに、こっそり通う必要もないし、それを何か悪いことをしているのを見つけるみたいなことをするのって、なーんか変だなあ…」


『少年』は、少年らしい素直な疑問を抱く。




「『三日餅』(みかのもちひ)は、『三日夜の餅』ともいうんだが、『源氏物語』にも出てくるんだよ」


『少年』の父親は、矛先をかわすように『源氏物語』を持ち出した。


「『源氏物語』って、『光源氏』の?」

「そうだ。『光源氏』と『紫の上』との結婚でも、『三日夜の餅』は出てくるんだぞ」

「へええ、そうなの。じゃあ、今度、『源氏物語』読んでみようかなあ」

「え!?」


と、『少年』の父親が、いつもの冷静さを失った様子を見せた時、


「『ミナミ』からは、『ヒロダイ』に行く生徒が多いからなあ…」


バスの中の他の誰にも聞き取れない程度の小さな声が、呟きを続けていた。呟きの主は、どうやら、広島の進学校である広島県立広島皆実高校の出身で、『ハンカチ大学』の商学部に在籍しているようであったが、『ミナミ』こと母校の『広島皆実高校』から、もっと多くの生徒が、『ハンカチ大学』や、それと並んで私立大学の双璧とされる『OK牧場大学』進学することを望んでいるようであったが、『ミナミ』の実態としては、『ヒロダイ』、つまり、『広島大学』に進学する生徒が多いことを嘆いているように見えた。この呟きの主は、後年、『ミナミ』からは、『ハンカチ大学』、『OK牧場大学』おろか、『ヒロダイ』に進学する生徒が激減することを知らなかった。


(続く)




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